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カモ類の個体数

ガンカモ類の生息調査データを使った個体数指数

毎年1月に環境省と都道府県が行っているガンカモ類の生息調査(通称「ガンカモ一斉調査」)の記録について電子化されている1996〜2009年を分析したところ、明確な増減傾向があることが分かってきました。

このページでは分析結果の概要をご紹介しますが、さらにご興味のある方は下記の文献をご覧下さい。

Satoe Kasahara and Kazuo Koyama: “Population trends of common wintering waterfowl in Japan: participatory monitoring data from 1996 to 2009”. ORNITHOLOGICAL SCIENCE, Vol. 9, pp.23-36 (2010) .

水面採食ガモの減少と潜水ガモの増加

ガンカモ類の生息調査(以下、生息調査)は1971年から続いており、2010年1月の調査では全国で8724ヵ所で調査が行われています。今回はこの調査で記録地点数が多い13種のカモ類について個体数変化を解析しました。なお調査地点の追加や廃止があるため、14年間のうち13年以上の調査が行われた地点だけを用いています。その結果、表にあるように、7種のカモが減少し、2種は変化がなく、そして4種が増加していることが分かりました。


表.カモ類の年変化.地点数は13年以上調査した地点.
  **: P<0.01で統計的に有意.
  ※マガモ,カルガモ,オシドリは国内でも繁殖.

変化の原因を考える

種と増減傾向のあいだには、いくつかの特徴があることが見て取れます。第一に採食形態の違いです。減少している種のほとんどは水面採食性で、増加しているのは潜水採食性のカモ類です。採食形態の違う両グループの種の個体数指数を幾何平均(※)してみても、やはり前者は減少し、後者は増加するという傾向がありました(図1)。

図1.水面採食ガモ類と潜水採食ガモ類の個体数指数の幾何平均.1996年を1として指数化している.

※ 幾何平均は個々のデータを掛け合わせ、そのべき乗根を求めたもので、変動する数字の平均を表すのに適しています。

減少している種には水田を利用する種や、繁殖地が中緯度地域の種が多いことも特徴です(表)。さらに日本の地域別で見ると、減少しているマガモは東日本の方が減少度合いが強く、増加しているキンクロハジロは反対に東日本の増加度合いが強いようにも思われます(図2)。


図2.マガモとキンクロハジロの
都道府県別増減傾向

何が個体数変化の原因になったのかは間接証拠を挙げることしかできませんが、ひとつには水質改善の影響があるかもしれません。以前に比べれば日本の湖沼や河川の水質は相当に改善しています。減少傾向が多い水面採食ガモの中でもヨシガモやヒドリガモの数が安定しているのは、エサとなる水草が豊かになったせいかもしれません。一方で、プランクトンを餌とするハシビロガモは富栄養化した湖沼に多いことが他の調査からも分かっていますが、彼らにとっては水質改善がエサの減少につながったはずです。

水質は改善しているものの、全体として見みれば河川湖沼やその周辺の自然環境は悪化しつつあります。護岸がコンクリートで固められて水辺のヨシや樹木がなくなったことで、水面採食ガモ類は休息場を奪われたかもしれません。水田を餌場にしていたカモ類にとっては、彼らが好む水の溜まった水田の減少や、放棄水田の増加、秋に水田を耕起する農法の普及による落ち穂の減少などが影響した可能性もあります。

生息調査では調査地の環境区分も記録されていますが、マガモやキンクロハジロはすべての環境区分で減少または増加の傾向がありました。このようなケースでは繁殖地の影響が疑われます。ロシアの中緯度地域では経済活動が活発化しているため、生息地の破壊が進んでいるのかもしれません(図3)。

図3.繁殖地域別のカモ類の個体数指数の幾何平均.1996年を1として指数化ている.


正確な原因を知るために

私たちが解析したのは環境省生物多様性センターのホームページで公開されている1996年以降のデータですが、カモ類の減少はそれ以前に始まっていたという報告例もありますし、日本の湖沼や河川の開発が激しかったのは1960〜70年代であることを考えれば、もっと以前からのデータを解析して、どのような環境でカモ類が減少していたのかを調べる必要があります。また繁殖地の状況の解明は困難ですが、日本で越冬している種の繁殖地が衛星追跡などの新しい技術を使った調査で明らかになることを期待しています。

ガンカモ類の生息調査の記録は、大勢のボランティアが国や都道府県に協力し、長い年月かけて調査してきた貴重なデータです。これまでは単純な集計以上の解析が行われていませんでしたが、このデータを詳しく解析することで生息調査本来の目的である「湿地の保全」に役立てていくことが重要だと思います。


解析した13種の個体数指数

1996年を1として、全国の相対的な個体数変化を表しています。