ベランダバードウォッチ−身近な野鳥調査−を始めます
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ベランダバードウォッチ2006年越冬期 調査結果


 ベランダバードウォッチの冬期の調査は,この冬で 2回目を迎えました。今冬は,例年にない暖冬で,しかも秋は山に木の実が少なかったためかクマが人里近くへ多数出現して新聞やテレビを賑わせました。このような環境条件は私たちのまわりの鳥たちにどのような影響を及ぼしたのでしょうか。今冬は,家での調査と家のまわりの調査に合計51人の方が参加してくださいました。調査地も北海道から九州まで多岐にわたっていました。

記録された鳥

 今冬は10月から 2月末までの期間に,家での調査47種,家のまわりの調査95種の合計96種が記録されました(表 1)。昨年が94種でしたので,種数上はほとんど同じでした。家での調査と家のまわりの調査を比較すると,家のまわりの調査の方が家での調査より 2倍近く多くの種が記録されました。これは,家のまわりの調査が10月から 2月まで対象としているのに対して,家での調査が12月下旬から2月までを対象にしているのが原因の1つとなっていて,家のまわりの調査での記録種にはキビタキやオオルリ,サメビタキなどの夏鳥も多く含まれていました。ただし,調査期間をそろえても,家のまわりの調査の64種に対して家での調査は47種で,やはり家のまわりの調査のほうが家での調査より多く記録されました。これは,家のまわりの調査のほうが,多様な環境が含まれるため,より多くの種が記録されるためと考えられます。


表1.2006年越冬期に記録された鳥のリスト
1 カイツブリ 33 アオゲラ 65 サメビタキ
2 カワウ 34 アカゲラ 66 コサメビタキ
3 ゴイサギ 35 コゲラ 67 エナガ
4 ダイサギ 36 ヒバリ 68 ハシブトガラ
5 チュウサギ 37 ショウドウツバメ 69 コガラ
6 コサギ 38 ツバメ 70 ヒガラ
7 アオサギ 39 イワツバメ 71 ヤマガラ
8 マガン 40 キセキレイ 72 シジュウカラ
9 マガモ 41 ハクセキレイ 73 ゴジュウカラ
10 カルガモ 42 セグロセキレイ 74 メジロ
11 コガモ 43 ビンズイ 75 ホオジロ
12 ヒドリガモ 44 タヒバリ 76 カシラダカ
13 オナガガモ 45 ヒヨドリ 77 ミヤマホオジロ
14 ハシビロガモ 46 モズ 78 アオジ
15 ミサゴ 47 ミソサザイ 79 アトリ
16 トビ 48 コルリ 80 カワラヒワ
17 オオタカ 49 ルリビタキ 81 マヒワ
18 ツミ 50 ジョウビタキ 82 ベニマシコ
19 ハイタカ 51 イソヒヨドリ 83 イカル
20 ノスリ 52 トラツグミ 84 シメ
21 ハヤブサ 53 クロツグミ 85 スズメ
22 チョウゲンボウ 54 アカハラ 86 ムクドリ
23 キジ 55 シロハラ 87 カケス
24 バン 56 マミチャジナイ 88 オナガ
25 イカルチドリ 57 ツグミ 89 ミヤマガラス
26 イソシギ 58 ウグイス 90 ハシボソガラス
27 ユリカモメ 59 メボソムシクイ 91 ハシブトガラス
28 セグロカモメ 60 キクイタダキ 92 コジュケイ
29 キジバト 61 キビタキ 93 ドバト
30 ヒメアマツバメ 62 ムギマキ 94 ホンセイインコ
31 アマツバメ 63 オジロビタキ 95 ガビチョウ
32 カワセミ 64 オオルリ 96 カモ類



 次に,それぞれの調査における出現率上位10種をみると,家での調査ではスズメ,ヒヨドリ,ハシボソガラス,キジバト,ハクセキレイ,シジュウカラ,ハシブトガラス,ムクドリ,メジロ,ドバトの順で,家のまわりの調査では,ヒヨドリ,スズメ,ムクドリ,メジロ,ハシブトガラス,キジバト,シジュウカラ,ツグミ,ハシボソガラス,ハクセキレイでした。記録された種数には家のまわりの調査と家での調査で違いがありましたが,上位10種の顔ぶれは,順位こそ多少異なるもののほぼ同じでした。したがって,冬期に私たちの身のまわりに生息する種は,これら11種が主要な鳥たちであると言えます。

家のまわりの調査による季節変動

 家のまわりの調査は,10日ごとの生息種を記録しています。そこで,図 3に主な種の記録率の変動を図示するとともに2005/06年の冬と比較してみました。スズメとヒヨドリの記録率は,調査期間を通して大きな変動はありませんでした。キジバトとハシブトガラスは10月から12月下旬にかけて徐々に減少し,その後また増加する傾向がありました。ツグミは,飛来してから急激に増加し,調査期間を通して増加する傾向があり,他の鳥たちとその傾向が著しく異なっていました。ジョウビタキは,昨年の報告と同じように,今年も渡来直後は出現率が高いのに,11月中旬をピークに減少しました。
 昨年と比較すると,シジュウカラやヒヨドリ,キジバト,ツグミでは,出現率が昨年より高い傾向にありました。また,スズメ,ハシブトガラス,ハシボソガラスでは,調査期間の前半では昨年よりやや低かったのに,後半では昨年より高くなる傾向がありました。これらは,寒さが厳しくなる 1月から 2月の気温が今年は暖かかったことから,鳥たちの活動が活発だったために,記録率が高かったのかもしれません。
 これらの種でも両年にもっとも差が見られたのは,ツグミでした。昨年は,11月下旬から記録率が増加しましたが,今年は一月早い10月下旬から高くなり,その後も記録率は上昇し続けたのです。一方,同じ冬鳥のジョウビタキは出現時期も記録率の推移もほとんど昨年と同じでした。両種に違いがみられたのは,越冬生態の違いを反映しているのかもしれません。クマで騒がれたように,秋に山に木の実が少なかったために,今冬のツグミはいち早く平地へ降りてきたため,今年は早く,多くのツグミが見られたのかもしれません。一方,ジョウビタキはなわばりをかまえるので,途中で山に立ち寄ったりせずに,繁殖地から一直線に越冬地に戻ってくるので昨年と今年で差がなかったのかもしれません。年による出現時期の違いは,季節前線ウォッチと同じようにベランダバードウォッチを続けていく上で得られる興味深い結果の一つです。さらに何年も続けることで,気象などとの関係を解析できると思われます。

 

家での調査から

 昨年と今年で記録率に違いがあるかさらに詳しく調べるには,同じ調査地同士を比較する必要があります。今冬は,昨年と同じ場所で家での調査を 4回以上行なってくださった方が13人いました。そこで,何か面白いことが分かるかと結果を比較してみました。その結果,2シーズンのデータを見て分かったことは,多くの調査地で記録種が大分異なっていたことです。図は,各調査地で記録された種の昨冬と今冬の重複率をまとめたものです。両シーズンともまったく同じ種が記録された(重複率100%)調査地は 1か所,逆に40%だけ同じ種が記録された調査地が 1か所ありました。多くの調査地は60%台だったのです。この違いがたまたまこの 2年間に起きたことなのか,それとも冬期には毎年ある程度異なるのか興味深い問題です。一方,家のまわりの調査で,1月以降出現率が高かったスズメの記録数を,両シーズンで比較してみました。地域的な影響を少なくするために調査地数の多かった関東地方の調査地で見てみると,8か所中 6か所では今年のほうが昨年より調査 1回あたりの個体数が多かったのです。逆に昨年の方が多い調査地は 1か所,同数が 1か所でした。調査地数が少ないためはっきりと言うことはできませんが,今年の方がスズメが多いことを窺わせる結果と言えそうです。調査地がもっと多いと,さらに詳しい違いが見えてくるかもしれません。

同じ調査地における2005/06年と2006/07年の記録種の重複率


関東地方の調査地におけるスズメの2005/06年と2006/07年の記録数の比較



引き続きご協力よろしくお願いいたします

 以上のように,ベランダバードウォッチは調査を開始してまだ 2年目です。それでも,この調査が身近な鳥たちの生息状況を的確に表しているらしいことが分かりつつあります。さらに,一人でも多くの方が,毎年同じ場所で,同じ方法で調査を続けていただければ,もっと面白いことが見えてくるに違いありません。そして,その冬が鳥たちにとって,どのような冬だったのかが明らかになることでしょう。繁殖期も,ご協力を宜しくお願いいたします。

 2006年冬の調査では,以下の皆様に調査にご協力いただきました(4月1日時点 敬称略 順不同)。ご協力ありがとうございました。新井和雄,新井清雄,荒石恭至,有川章子,飯泉 仁,猪飼幹太,石口富實枝,石崎友紀子,石丸英輔,今森達也,岩渕和信,植田明子,植田睦之,内野 恵,大槻公彦,加藤晴弘,金子はる子,川畑 紘,吉家奈保美,木下香菜,國末保文,黒沢令子,群馬県立中央中等教育学校科学部,神山和夫,小荷田行男,小林俊子,小室智幸,斉藤けい子,齋藤映樹,笹本亨太,白石健一,白須文康,高野敏枝,高橋昌也,田中利彦,永井健介,長嶋宏之,中村宏雄,成田雅彦,花房ゆかり,原田正之,原 靖之,平野敏明,藤原淳子,堀 純司,三浦祝子,三田長久,宮崎謙二,安田耕治,山野敬二,吉田邦雄,吉野智生



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