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2007年度 バードリサーチ活動報告

特定非営利活動法人 バードリサーチ


鳥類や自然環境の基礎情報の収集解析事業

本プロジェクトでは,保全に利用することのできる基礎的な情報を収集,データベース化することを目的に活動しています。目的が一致している環境省のモニタリングサイト1000に関わるとともに,モニタリングサイト1000では漏れてしまうような身近な場所での情報収集をすすめています。また,長期間のモニタリングに不可欠と考えている自動的な情報収集の手法を開発するために,レーダーを用いた手法や音声認識の手法を,また特定の種にしぼった情報収集としてツバメやヒクイナ,ミヤマガラスの調査をすすめています。

  • モニタリング事業
    委託主 環境省,WWF(環境省事業),マイクロソフト助成,自主事業ほか
    目的 環境省のモニタリングサイト1000をとおして日本の鳥類の状況をモニタリングすることを目指す。また,独自に情報収集のためのデータベースを整備し,鳥類の生息状況の情報収集を行ない,生息状況の変化の原因を明らかにする。
    内容と成果 モニタリングサイト1000については,ガンカモ類について直接受託することになった。森林と草原の鳥類および干潟のシギチドリ類についての運営に関わり,データの蓄積や解析を行なった。2008年度からはシギチドリについても直接受託をすることになった。また独自事業としてベランダバードウォッチ,季節前線ウォッチ,探鳥会DBを継続し,会員外を含めた多くの人が鳥の調査に興味を持つきっかけをつくった。
  • レーダーを用いた渡り鳥調査手法開発調査
    委託主 環境省,文部科学省
    目的 環境省事業ではウィンドプロファイラという風を探知するレーダーにより渡り鳥のモニタリングが出来ないかを検証することを,文部科学省委託研究では船舶レーダーをもちいて鳥由来のウイルスを持ち込む可能性の高い鳥についてその渡り経路を明らかにすることを目的とした。
    内容と成果 環境省調査では室蘭で現地調査を実施し,「渡り鳥エコー」と呼ばれていたエコーが鳥であることを示した.文部科学省委託研究では東京大学樋口研とともに,カモ類やミヤマガラスの衛星追跡調査を行なった。それを補完するために,船舶用レーダーを使ったミヤマガラスの渡り追跡を対馬と出雲で実施し,朝鮮半島との行き来を見ることができた。またミヤマガラスについては全国的な飛来情況やその季節変化についての情報収集を行なった。
  • 音声認識装置の開発
    委託主 熊本大学(環境省事業)
    目的 調査があまり進んでいない夜行性鳥類の生息状況調査を行なうために音声の自動認識装置を開発する。
    内容と成果 自動認識装置の辞書にするために夜行性の鳥の音を収集し,それをもとに熊本大学で音声認識用のソフトウェアを開発した。また,音声による調査方法が夜行性鳥類の記録のために有効なことを録音と聞き取りの比較から明らかになった
  • ツバメかんさつ全国ネットワーク
    委託主 子どもゆめ基金,自主事業
    目的 ツバメの巣のマッピングシステムを開発して一般に提供し,ツバメの営巣場所の選好性を解明する。
    内容と成果 ツバメかんさつ全国ネットワークで提供している観察記録システムの中に、あらたな巣のマッピングシステムを追加し、現在入力を受付中である。従来のシステムが、数個の巣を詳しく観察することと、初認位置を入力することを目的に作られていたのに対して、新システムでは地図上に多数の巣の位置を落としていくようなタイプの記録を行うことに適した機能になっている。
  • ヒクイナ生息状況調査
    委託主 自主事業
    目的 減少していると考えられているヒクイナの生息状況とその原因を明らかにする
    内容と成果 アンケートを継続するとともに,個体数が多いことがわかった西日本での生息環境調査を開始した。アンケートでは2008年7月25日現在2府25県51名の方からヒクイナの生息に関する情報が提供された。詳しい生息および環境調査は、神戸市西区および加古郡稲美町一帯でプレイバックによって、地元の会員と共同で越冬期と繁殖期の生息調査を実施した。2008年の繁殖期に117地点で調査し38か所63羽のヒクイナの生息を確認した。
  • 飛翔性昆虫調査
    委託主 自主事業
    目的 鳥類の減少に食物である飛翔性昆虫の減少が影響していると考えられるので,その調査手法について検討する
    内容と成果 自動販売機に集まる虫を数える「自動販売機トラップ」で大まかなモニタリングが出来ることが明らかになった。約100か所からの情報を得られたので,数年後に再度調査を実施するための基礎データとする予定である。鳥の調査でないためか,参加者が少なく,こういったテーマの調査をどのように興味を持ってもらうかが課題である。
  • ミヤマガラス初認調査
    委託主 自主事業
    目的 ミヤマガラスの渡来ルートやそのパターンを明らかにする。
    内容と成果 一昨年,昨年に引き続き,ミヤマガラスの初認の記録を集めた。今年は,会員のほか,タカの渡りを観察している人たちにも呼び掛け,渡りと思われる飛翔を観察した場合に,その方向を記録してもらうようにした。その結果,九州では北西から南東方向が多く,中国では西から東という飛翔方向が見られ,東日本では北から南へという傾向が見られた。渡来のルートが北と西の両方にあることが裏付けられた。


鳥類や自然環境の保全施策の立案提言事業

 本プロジェクトは人と鳥類の共存のために,その手法を構築していくことを目的としています。現在,人との軋轢のある種としてカワウを,希少種として猛禽類をモデルケースとして事業を実施しています。

  • カワウ保護管理推進事業
  • 委託主 環境省,武蔵丘陵森林公園,関東カワウ広域協議会,自然環境研究センター,自主事業ほか
    目的 バードリサーチが所有するカワウの生態と調査の知見を活かして,関東広域協議会の運営や,カワウの保護管理に関するデータセンターの運営,武蔵丘陵森林公園のコロニー管理の検討,全国の行政担当者向けの研修会の運営に複合的に関わりながら,カワウの保護管理に貢献することを目的として実施した。
    内容と成果 関東カワウ広域協議会の事務局を務め,一斉モニタリング調査の集計や捕獲個体のデータの集積,一斉追い払いのコーディネートなどをおこなった。情報の共有と、広域的一体的対策を推進した。データセンター業務では,データベースへのデータの追加を行なった。武蔵丘陵森林公園ではカワウの生息状況を把握すると共に、コロニーの管理について検討を行なった。また,行政担当者向けの研修会では,カワウの生態や保護管理の基本の講習のほか,特定計画等を作成している都道府県にその解説と運用について講義してもらい,特定計画のイメージをつかんでもらうことで,科学的な保護管理に有用な特定計画の普及を促すことができた。
  • カワウの広域移動の衛星追跡調査
    委託主 環境省,中央水産研究所
    目的 中部近畿のカワウの移動実態を把握し,それをカワウの広域的な管理に活かすことを目的に衛星追跡調査を実施した。また,全国的なカワウの生息数や分布の季節的な変化を調査するため,アンケート調査と主要なねぐらでの現地調査を会員や野鳥の会の支部などの協力を得て実施した。
    内容と成果 衛星追跡調査では,琵琶湖の竹生島と伊勢湾沿岸の弥富野鳥園で合わせて17羽のカワウを捕獲して送信機を装着し追跡を行なった。昨年に引き続き弥富野鳥園のカワウが春に浜名湖に移動することを確認した。また,弥富野鳥園のカワウが春に岐阜を経由して琵琶湖へ移動することを確認し,竹生島からの追跡では1羽が広島へ,1羽が岐阜へ秋に移動することを確認した。この結果から,琵琶湖と伊勢湾のねぐらの間でカワウが季節的に移動していることが明らかになり,このことは全国的なアンケート調査から得られた個体数の季節変動とも一致した。また,全国的なねぐらの調査によって,カワウのおおよその生息数とねぐらの分布の季節変化を把握することができた。
  • カワウ狩猟モニタリング事業
    委託主 自然環境研究センター(環境省事業)
    目的 2007年11月の猟期からカワウが狩猟対象に加えられたことを受けて,そのことによるカワウに与える影響と被害軽減の効果についてモニタリングするための調査手法の開発を目的として調査を行なった。
    内容と成果 比較的過去のカワウの個体数のデータがそろっている関東と中部において,狩猟期間終了直後の個体数の調査を行なうとともに,早朝の採食地の調査を行ない,現地調査の手法についての検討を行なった。また,調査候補地の検討のため,中四国九州地方に視察を行ない,調査に適したねぐらがあるかどうか等の調査を行なった。このほか,カワウの狩猟圧分布をカモの狩猟圧を用いて推定し,ねぐらの分布との比較を行ない,被害軽減の効果を周辺漁協へのアンケート調査によってモニタリングした。
  • カワウのねぐら&標識調査
    委託主 自主事業,行徳野鳥観察舎友の会(千葉県・市川市事業)
    目的 カワウが分布域と個体数を回復してきたことに伴い,各地で漁業被害や樹木枯死被害が訴えられるようになってきた.適切な保護管理を行なうための基礎資料とするため,分布,個体数,年齢構成,若齢個体の分散について明らかにする.
    内容と成果 関東各地のボランティア調査者のべ400名以上の協力を得て,各ねぐらで個体数と成鳥幼鳥比,営巣数の調査を行った.また,カワウ標識調査グループとの共同調査で,第六台場(東京都),行徳鳥獣保護区・小櫃川河口(千葉県)において,498羽にカラーリングの標識を装着し,観察データを収集した。
  • オオタカ保護指針策定調査
    委託主 環境省
    目的 オオタカの保護指針を策定するための情報収集を行なう。
    内容と成果 全国的なオオタカの生息状況のモニタリング体制の確立を図るために,山形,新潟,栃木,埼玉,静岡,石川,岡山でオオタカの生息状況のモニタリングを開始した。また,栃木の道路事業実施地で道路事業がオオタカの繁殖に与える影響についての調査を行なった。調査対象のオオタカのうち2つがいが繁殖を行なわず,調査を翌年度に延期したため,会計上の決算は行なわず,翌年に繰り越している。
    また,本事業に連携してサシバのアンケートを行なった。減少原因が,以前の里山の開発から,耕作放棄や捕食に変わってきている様子が示された。
  • 渡り集結地衝突影響分析業務
    委託主 環境省
    目的 風力発電のバードストライクの問題を軽減するための基礎資料の収拾
    内容と成果 バードストライクの危険の少ない立地を選ぶ基礎資料としての渡り経路の調査および実際にバードストライクが起きているオジロワシ等のワシ類の行動調査を行なう事業で,前者を日本鳥類保護連盟が,後者をバードリサーチが担当した。ワシ類の行動調査の結果,渡り時期は主要な渡り経路では飛翔高度が高く,バードストライクの危険は低いが,悪天候時に渡る山沿いの経路では飛翔高度が低く,バードストライクの可能性があることがわかった。また,越冬期のオジロワシとオオワシの行動調査の結果,オジロワシが低空を高頻度で飛ぶことなど,行動の違いで,オジロワシでバードストライクが見られ,オオワシで見られない理由が説明できる可能性が示された。

自然環境の改善の立案提言事業
  • 本年度は実施せず
自然環境保全と調査研究についての普及啓発事業

 本プロジェクトは全国的な調査を担うアマチュア研究者を育成することを目的に実施しています。そのために以下の活動を行なうとともに,船舶レーダーを使った調査の研修会も実施しました。

  • 日野市環境マップ
    ツバメかんさつ全国ネットワークの一環として,日野市のツバメ調査とツバメ保護のための啓発活動を行う。さらに活動を通じて日野市の行政や市民との交流を深めるため,市民からのツバメの巣の情報募集,小中学生のデザインコンクール形式によるツバメシールの制作を行った。ツバメシールには約200点の応募があり,最優秀作品でシールを作成して市民に配布したほか,日野市役所で原画展を開催し,多くの市民にツバメシールのデザインを鑑賞してもらった。
  • ホームページの開設
    調査プロジェクトの内容や結果をホームページに随時掲載した。
  • ニュースレターの発行
    ニュースレターを毎月1号,計12号を発行した.各号の概要版はニュースメールとしてテキストで配信し,ホームページにも公開した。
  • 研究誌の発行
    11本の論文を掲載した第3巻を2007年12月に発行した.



損益計算書

NPO法人 バードリサーチ

自 2007年7月1日   至 2008年6月30日 (単位:円)


事業損益の部
収入の部
会費収入
 847,000
 
寄付金収入
3,358,615
 
基礎情報の収集解析事業
39,011,150
 
保全施策の立案提言事業
61,880,670
 
自然環境の改善の立案提言事業
0
 
普及啓発事業 767,000   
民間助成金 3,358,615
その他 415,818  
収入合計   111,298,253
支出の部
【研究費】    
基礎情報の収集解析事業
39,215,843
 
保全施策の立案提言事業
48,002,163
 
自然環境の改善の立案提言事業
0
 
普及啓発事業
503,526
 
独自研究費
496,034
 
一般管理費
14,948,714
 
法人税等
674,700
 
消費税等
1,409,119
 
支出合計  
105,250,099
当期収支  
6,048,154
前期繰越損益  
3,004,236
次期繰越損益  
9,052,390



会費・寄付金収支決算書

NPO法人 バードリサーチ

自 2007年7月1日   至 2008年6月30日(単位:円)


収入  
 会費収入 847,000
 寄付金収入3,358,615
支出
 
ニュースレター等発行135,161
独自調査費 308,159
研究集会開催費
187,875
一般管理費等 1,494,871
来期繰越金 216,609