都市環境に見られるスズメの巣立ち後ヒナ数の少なさ
  〜一般参加型調査 子雀ウォッチの解析より〜

Bird Research 7: A1-A12


三上修1・植田睦之2・森本元3,4・笠原里恵3・松井晋3・上田恵介3
1. 岩手医科大学・共通教育センター・生物学科
2. バードリサーチ
3. 立教大学・理学部・生命理学科
4. 東邦大学・理学部東京湾生態系研究センター

 近年,日本国内においてスズメ Passer montanus の個体数が減少していると言われている.その原因はわかっていないが,熊本で行なわれた先行研究では,都市部では農村部とくらべて1つがいが連れている巣立ち後のヒナ数が少なく,都市化にともなう何らかの要因がスズメの減少をもたらしている可能が示唆されている.しかし,この研究は狭い地域で行なわれたものであり,それが本当に日本全体でも起きているかはわからない.そこで2010年にこの研究と同じく,巣立ち後のヒナ数を調べる調査を「子雀ウォッチ」と銘打ち,一般市民に協力してもらう形で全国規模で行なった.その結果,全国から406の記録が集まり,それを解析したところ,巣立ち後の平均ヒナ数は,商業地で1.41羽,住宅地で1.81羽,農村では,2.13羽と,商業地,住宅地,農村の順に多くなった.この結果は前述の先行研究の結果と整合性があり,やはり都市化と関連している何らかの要因が全国規模でスズメの減少要因になっていると考えられる.この子雀ウォッチを今後もつづけ,記録を蓄積することで,スズメの減少要因の解明につながると期待できる..


キーワード: スズメ,巣立ち後ヒナ数,都市化,繁殖成功




伊豆諸島に生息するヤマガラ3亜種の個体数と生息の安定性

Bird Research 7: A13-A31

藤田 薫1・藤田 剛2・長谷川雅美1・樋口広芳2
1. 東邦大学地理生態研究室
2. 東京大学大学院農学生命科学研究科生物多様性科学研究室


 個体数や生息地面積の把握と共に局所個体群の生息の安定性を推定することは,火山諸島の希少種の保全のために,特に重要であると考えられる.本論文では,2002〜03年の伊豆諸島におけるヤマガラの生息個体数と生息地の面積(森林面積)を島および亜種ごとに推測するとともに,各島での1955〜2009年の間の生息の安定性に影響する要因を推定した.その結果,本土と共通する亜種ヤマガラは最も北の大島にだけ分布し,約60km2の森林に最低12羽から最大1140羽生息すると推定された.絶滅危惧IB類に指定されている亜種,ナミエヤマガラは伊豆諸島中部の新島と神津島の約20km2の森林に1760〜1850羽,絶滅危惧II類の亜種オーストンヤマガラは南部の三宅島,御蔵島,八丈島の約65km2の森林に4420〜5290羽,生息すると推定された.モデル選択の結果,伊豆諸島のヤマガラの生息割合に最も影響を与えていた要因は,島の面積であった.モデル式から,局所個体群の生息割合は,面積14.0 km2以上の島で安定した生息を示す0.9以上の値をとり,1.7km2未満の島では0.1以下であった.伊豆諸島のうち面積が中程度,3〜6km2の島(利島,式根島,八丈小島,青ヶ島)ではヤマガラの局所的な絶滅,侵入が起こりやすいと予測され,実際,近年,利島では絶滅が,式根島では侵入が確認された.


キーワード: ヤマガラ,ナミエヤマガラ,オーストンヤマガラ,伊豆諸島,個体数推定,生息安定性





西日本におけるリュウキュウサンショウクイの分布拡大

Bird Research 7: A33-A44

三上かつら・植田睦之
バードリサーチ


 アンケートや文献調査から,亜種リュウキュウサンショウクイ Pericrocotus divaricatus tegimae の西日本における分布拡大状況を把握した.1970年代に南九州に生息していた本亜種は,2010年までに九州北部・四国・紀伊半島においても確認されるようになった.生息地では留鳥であるが,一部個体は冬には繁殖地より暖かい中〜低標高地へ移動している可能性もある.生息環境について,亜種サンショウクイ P. d. divaricatus と比較すると,両亜種のニッチは似通っているもしくは連続的であった.現在,繁殖期は亜種サンショウクイのほうが北の地域に生息しているものの,越冬期は亜種リュウキュウサンショウクイのほうが北の地域に生息していることから,両亜種の分布の違いは寒さへの生理的耐性では説明できない.1980年代に亜種サンショウクイが減少し,空いた地域で亜種リュウキュウサンショウクイが夏に繁殖できるようになり,さらに越冬するようになったものと示唆される.環境条件から推定した生息可能域は,関東地方にまでおよぶことがわかった.


キーワード: リュウキュウサンショウクイ,サンショウクイ,分布拡大,生息環境






神戸市西区周辺におけるヒクイナの生息状況

Bird Research 7: A45-A55

渡辺美郎・平野敏明1
1. バードリサーチ


 繁殖期と冬期のヒクイナの生息個体数を調査するために,兵庫県神戸市付近の約43.75q2内の河川や溜池,農地で2009年1月から6月に録音再生法をもちいて調査を行なった.冬期には, 190地点で鳴き声再生した結果,合計76羽(1月)と66羽(2月)のヒクイナが記録された.環境区分ごとの1月と2月の調査地点あたりの個体数は,中規模河川(N=55)が0.62羽と0.62羽,小規模河川(N=49)が0.18羽と0.29羽,池(N=78)が0.41羽と0.23羽,農地(N=7)が0.14羽と0.29羽であった.一方,繁殖期には,合計169地点で調査を行ない,合計81羽(5月)と45羽(6月)が記録された.環境区分ごとの5月と6月の調査地点あたりの個体数は,中規模河川(N=48)が0.79羽と0.46羽,小規模河川(N=49)が0.31羽と0.18羽,池(N=65)が0.38羽と0.17羽,農地(N=7)が0.38羽と0.38羽であった.農地を除く3環境区分の個体数は,冬期および繁殖期とも有意に異なっており,中規模河川がもっとも多く記録された.池の調査地における生息の有無と池の面積および池内の湿地性植物の面積を比較した.ヒクイナの生息が確認された池の面積(±SD)は,2.87±3.62ha(冬期)と2.69±3.20ha(繁殖期),生息が確認されなかった池は2.89±2.72ha(冬期)と3.16±3.16ha(繁殖期)で,両者の間には有意な違いは得られなかった.しかし,ヒクイナが生息していた池の湿地性植物の面積は,0.27±0.21ha(冬期)と0.28±0.22ha(繁殖期)で,生息していなかった池より湿地性植物の面積が有意に広かった.このことから,ヒクイナの生息には湿地性植物の面積が重要であることがわかった.調査地で,越冬期と繁殖期に70羽以上のヒクイナが記録されたのは,調査地には溜池が多くあることで,良好な生息環境が多く存在するためと考えられる.


キーワード: 越冬個体数,湿地性植物,鳴き声再生法,繁殖個体数,ヒクイナ





春の渡り時期におけるハヤブサの捕食成功率

Bird Research 7: A57-A61

山田一太
瀬戸内海ハヤブサ研究会


 春の渡り時期にハヤブサ Falco peregrinus の捕食成功率を明らかにする目的で広島県大竹市の海岸で調査を行なった.調査地では1991-2011 年まで,2000 年と2005 年を除く,のべ19 年間に146 日行ない,ハヤブサの捕食行動は115 日観察した.ハヤブサはヒヨドリ Hypsipetes amaurotis を狙った攻撃が多かった.記録の多い海上における成鳥雌雄のヒヨドリに対する捕獲成功率では,雌は68%,雄は89%と雄の捕獲成功率が有意に高かった.ヒヨドリに対する捕獲成功率の違いに影響する要因としては,平均攻撃回数が雌が6.2 回だったのに対して雄は2.8 回と少なく,体の小さい雄の方が小回りがきき,退避行動をとるヒヨドリにうまく追従して攻撃したことが考えられた.


キーワード: ハヤブサ,春の渡り,狩り,ヒヨドリ,広島県





沖縄本島における Ipomoea属2種の花に対するメジロの盗蜜行動

Bird Research 7: S1-S4

籠島恵介


 沖縄本島において,メジロ Zosterops japonica が沖縄原産の植物ノアサガオ Ipomoe indica の花に対して盗蜜を行なうのを観察し,その盗蜜痕を撮影した.今までメジロによる盗蜜の記録のある花はすべて移入種であったのに対し,日本原産種に対して盗蜜が行なわれていたことは,メジロが沖縄島において,古くから盗蜜を行なってきた可能性を示す.また,同属で移入種のモミジヒルガオ I. cairica については,盗蜜行動の連続写真により,その詳細を記録した.ノアサガオへの盗蜜痕と思われるものは8回の調査のうち5回で観察され,323個の花のうち,最大被害率41.18%,平均被害率6.19%であった.モミジヒルガオでは,8回の調査のうち2回観察され,264個の花のうち,最大被害率31.03%,平均被害率5.68%であった.


キーワード: ノアサガオ,モミジヒルガオ,盗蜜,メジロ




宮古島におけるミゾゴイ属鳥類の初営巣記録

Bird Research 7: S5-S8

小海途銀次郎・水田拓1
1. 環境省奄美野生生物保護センター


 2010年6月4日に,宮古島においてミゾゴイ属鳥類の巣を発見した.巣はアカギの林の中にあり,地上約8mの枝の上につくられていた.巣の上には親が擬態の姿勢をとって座っていた.これは宮古島におけるミゾゴイ属鳥類の初めての営巣記録であり,それぞれの種の分布から考えると,ズグロミゾゴイの巣と考えられる.


キーワード: ミゾゴイ属,ズグロミゾゴイ,宮古島,繁殖




長崎県池島近海における鳥類の飛行高度

Bird Research 7: S9-S13

植田睦之1・馬田勝義・三田長久2
1. バードリサーチ
2. 熊本大学大学院自然科学研究科情報電気電子工学専攻


 洋上風力発電のバードストライクのリスクの高い種を検討する上の一資料として長崎県池島近海において2009年11月から2011年1月にかけて海上を飛行する鳥類の飛行高度を調査した.海上30m〜150mをバードストライクの危険のある高さと想定すると,オオミズナギドリ Calonectris leucomelas,カツオドリ Sula leucogaster,ウミネコ Larus crassirostris はそれより低い高さを,スズメ目の鳥類はそれより高い高さを主に飛ぶため,バードストライクの危険性は低いと考えられたが,ウミウ Phalacrocorax capillatus,セグロカモメ L. schistisagus,ミサゴ Pandion haliaetus,トビ Milvus migrans はバードストライクの危険性が高いと考えられた.

キーワード: バードストライク,洋上風力発電,飛行高度




青森県仏沼湿原におけるリュウキュウヨシゴイの声の報告

Bird Research 7: S15-S83

高橋雅雄1,2・宮彰男2・上田秀雄3
1. 立教大学理学部上田研究室.
2. NPOおおせっからんど.
3. ネイチャーサウンド


 2011年7月11日に,青森県仏沼湿原にてリュウキュウヨシゴイの声を録音した.本種は日本では主に琉球列島に生息する留鳥であり,本州においては関東甲信越から中国地方において数例の観察記録があるだけである.本報告は,東北地方におけるリュウキュウヨシゴイの初記録である.

キーワード:リュウキュウヨシゴイ, 初記録, 声紋, 東北地方, 音声




2002年から2009年に全国から情報収集したアビ類の分布状況のデータ

Bird Research 7: R1-R3

百瀬淳子
アビネットワーク・Japan


 日本国内の陸域の鳥類の分布状況が明らかにされている一方,海域の鳥類の分布は,主要な集団繁殖地の情報を除き,ほとんど明らかにされていない.そこで,海鳥類の中でも特に情報の少ないアビ類について情報収集を行ない,2002年から2009年にかけてアビ類が観察された位置と羽数をデータベース化した.

キーワード: アビ,オオハム,シロエリオオハム,ハシジロアビ,分布




1993年から2001年に全国のゴルフ場に設置した巣箱の利用状況のデータ

Bird Research 7: R5-R8

峯岸典雄
日本鳥類研究会


 ゴルフ場における農薬使用を鳥類の捕虫効果を利用して減ずる目的で,1993年から2001年にかけて山形県から熊本県までの全国21か所のゴルフ場にスズメ・シジュウカラ類用の巣箱を設置し,巣箱の利用率を上げるための設置手法検討のために行なった調査の結果である.鳥類およびその他の生物の巣箱利用状況について記録を行なった.鳥類の利用については,巣材の状況から巣箱を利用した鳥がカラ類なのかスズメなのか,繁殖に成功したのかどうかを推定し,巣材の量を記録している.また,巣箱の穴径,設置高,設置方位も計測している.

キーワード: ジュウカラ, スズメ, 巣箱, 繁殖成功




日本に生息する鳥類の生活史・生態・形態的特性に関する
データベース「JAVIAN Database」

Bird Research 7: R5-R8

高川晋一・植田睦之・天野達也・岡久雄二・上沖正欣・高木憲太郎・高橋雅雄・葉山政治・平野敏明・三上修・森さやか・森本元・山浦悠一


 全国的な鳥類の分布情報データを用いて,各種の分布を決める要因や生息数の増減に影響する要因等を探る上で,どのような生活史・生態・形態的な特性をもった鳥において変化が見られるのかを検討することは,効果的な解析手法の1つである.こうした解析を行なうためには日本産鳥類の形態や生態に関する情報が必要である.そこで,今回,海鳥類を除いた日本でみられる鳥類493種について,生活史や生態,形態の情報についてとりまとめ,データベース化した.このデータベース「JAVIAN Database(Japanese Avian Trait Database)」は,さまざまな研究を行なう上でも有用な情報と考えられるため,ここに公開した.

キーワード: 形態,生活史,生態,データベース,日本産鳥類