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バードリサーチ ニュース
2014年9月号 (Vol.11 No.9)
【 もくじ 】
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1.◆活動報告◆ オオタカの「希少種解除」が検討されています
2.◆学会情報◆ IOC&日本鳥学会2014年度大会
3.◆活動報告◆ ヨタカはまだ意外に多く生息?アンケート結果速報
4.◆お知らせ◆ 調査研究支援プロジェクト プラン募集中!
5.◆生態図鑑◆ コガラ
6.◆参加募集◆ オリジナル調査Tシャツを作ろう!
7.◆お知らせ◆ 研究集会2014 in大阪 開催します!
8.◆イベント◆ 特別展「どうする?どうなる!外来生物」
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【 概 要 】
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1.◆活動報告◆ オオタカの「希少種解除」が検討されています
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オオタカは,過去2回のレッドリストの改訂で,連続で「絶滅危惧II類」から外れ,
「準絶滅危惧」となりました.オオタカは種の保存法の「国内希少野生動植物種」に
指定されていますが,絶滅危惧種から外れたことを受け,環境省はこの指定の解除に
ついて検討をはじめました.バードリサーチは環境省から委託を請け,日本オオタカ
ネットワークとともにオオタカの個体数についての情報収集と希少種解除の問題点の
検討を行ないました.
○オオタカ希少種解除の問題点
文献とアンケートによってオオタカの個体数の動向を調査した結果,やはりオオタ
カのランクは「準絶滅危惧」が妥当なようでした.したがってこの点からは,オオタ
カを国内希少野生動植物種から外すことは妥当といえます.
しかし,オオタカの希少種解除にはいくつかの問題もあります.これまでオオタカ
の保護のためにその地域の里地の生物多様性が保全されてきた側面がありますが,指
定解除によって開発事業等への規制が弱まり,地域の生物多様性に影響をあたえるこ
とが最も懸念されることです.そのため「猛禽類保護の進め方」(環境省)に記載さ
れているような保全措置が今後も継続される必要があります.また,オオタカの密猟
問題は以前と比べると最近は少なくなっていますが,希少種解除により,はく製など
の譲渡が可能になり,密猟の罰則も軽くなることで,再び密猟問題が生じることも危
惧されます.鳥獣法により担保できる事項もあり,そのような枠組みの検討も必要で
す.さらに,オオタカの個体数は最近はやや減少している可能性があることから,指
定解除後のオオタカの個体数や繁殖成績のモニタリング,減った場合の再指定のしく
みの検討も必要でしょう.
こうした問題点について議論するために,立教大学でシンポジウム「オオタカ―希
少種解除の課題-」が開催されます.この問題に興味のある方は是非ご参加ください.
シンポジウム「オオタカ―希少種解除の課題-」について、詳しくはこちら↓
http://bit.ly/1rk5Snz
【植田睦之】
◆その他掲載記事
・オオタカは増加後,近年はやや減少?
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2.◆学会情報◆ IOC&日本鳥学会2014年度大会
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8月18~24日に国際鳥類学会議(International Ornithological Congress:以下
IOC),8月22~25日に日本鳥学会大会の両大会が,立教大学池袋キャンパスで開催さ
れました.バードリサーチのスタッフも総出で参加してきました.
初の日本開催となったIOCには,世界中から研究者が集まりました.立教大学の動
物生態学研究室をはじめ,事務局や実行委員会を担った皆さんの尽力,またたくさん
の企業や団体の協賛によって,盛大な大会となりました.IOCでは日本からもたくさ
んの発表があり,その分日本鳥学会の口頭発表が少なかった印象ですが,ポスター発
表は盛況で,活発な議論が交わされていました.
ここでは,IOCで行われた放射線に関するシンポジウムの内容をご紹介します.
■26th IOCのホームページ
http://ioc26.jp/
■日本鳥学会2014年度大会のホームページ
http://www2.rikkyo.ac.jp/grp/animal-ecology/osj2014/
○原発事故の野生生物への影響を測る
鳥類やその他の生物に放射線が及ぼす影響についてのシンポジウムは,黙とうから
始まりました.最初の講演では,サウスカロライナ大学のティモシー・ムソー教授か
ら,チェルノブイリと福島での原発事故以降に行われた調査と,得られた知見の概要
が紹介されました.それによると,チェルノブイリの事故後,鳥たちに羽色の異常や
白内障の症状が見られたり,無精子のオスの頻度が高くなるなど,様々な事象が観察
されたそうです.このような異常は鳥以外の生物でも確認されています.次に,パリ
第11大学のアンダース・メラーさんが,福島の事故直後から毎年行なってきた鳥類セ
ンサスについて発表されました.調査の結果,空間線量の高い地域では,鳥類の種数
や密度が減少する傾向があること,またヒヨドリやシジュウカラでは幼鳥の出現率が
低くなることなどが分かってきているそうです.
IRSN(フランス放射線防護・原子力安全研究所)の松井晋さんとオードリー・ステ
ルナルスキーさんからは,被爆量と種の生物学的特徴との関連についてお話がありま
した.生物が受ける総被爆量を推定するには,外部被爆と内部被爆を考える必要があ
りますが,松井さんによれば,樹上営巣種よりも地上営巣種で外部被爆量が多くなり,
また放射性物質を蓄積しやすい苔を巣材として用いる種も外部被爆量が多くなる可能
性があるそうです.ステルナルスキーさんからは,外部被曝量と内部被曝量の関係に
ついてお話があり,シジュウカラでは内部被爆量より外部被爆量の方が大きい可能性
があること,そしてそれは苔を巣材としていることと関係しているかもしれないとい
うことでした.
生物が受ける総被曝量を数値として正確に把握し,種の生態学的特徴と照らし合わ
せる作業は,放射線の影響を考える上で不可欠であり,また観察によって得られた結
果の意味を考えるための情報を提供します.原発事故の野生生物への影響を測るため
には,こうした作業を続け,情報を蓄積していくことが必要なのだと感じました.
【高木憲太郎・笠原里恵】
◆その他掲載記事
・「群れ」で見る渡りの世界
・モニタリングデータを料理する
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3.◆活動報告◆ ヨタカはまだ意外に多く生息?
―アンケート調査結果速報―
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ヨタカは,1980年代以降,日本における生息分布が著しく減少しました.たとえば
環境省の自然環境保全基礎調査では,1978年には生息確認メッシュが290あったのに
対し,1997年から2002年の調査ではわずか124メッシュになってしまいました.現在,
環境省のレッドリストでは,準絶滅危惧(NT)に選定されています.しかし,ヨタカ
は夕方から翌朝の薄暮時にかけて活動するため,詳しい生息状況を把握しにくい鳥で
す.そこで,ヨタカの生息状況を明らかにするために,バードリサーチでは,昨年か
ら全国を対象としたアンケート調査を実施しています.2013年と2014年のアンケート
調査から分かったことを簡単にご報告いたします.
アンケートでは,2年間で北海道から四国,九州地方までの28都道府県から合計49
名によって178件の情報が提供されました.お寄せいただいた178件の情報のうち,移
動途中の記録や同一年の重複した記録3件を除くと,生息が確認された調査地は112か
所,生息を確認できなかった調査地が63か所でした.今回の結果から,ヨタカは現在
でも北海道から四国,九州まで広く生息していることが改めて確認されました.
ところで,2004年に発表された自然環境保全基礎調査の報告書
(http://urx.nu/coEd (pdfが開きます))を見ると,山形県や高知県,岡山県
などでは,環境省の調査で生息が確認されなかったメッシュでも,今回の調査では生
息の報告をいただいているところがあります.環境省の現地調査は日中に行われてお
り,夜行性のヨタカの記録は文献や調査者の知見に基づいています.とすると,ヨタ
カの生息分布は過少評価されているのかもしれません.やはり,詳しい生息状況を知
るためには,実際に野外で調査することが不可欠と思われます.2年間の調査により
112か所で調査が行われましたが,まったく情報がない県や地域がまだ多数あります.
日本におけるヨタカの現状をより正確に把握するために,今後も引き続きご協力いた
だければ嬉しい限りです.末尾になりましたが,調査にご参加いただきました皆様に
お礼申し上げます.
【平野敏明】
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4.◆お知らせ◆ 調査研究支援プロジェクト
調査・研究プランを募集しています!
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○あなたの調査・研究を支援します!!
鳥類の調査・研究に特化した支援プロジェクトです.個人や企業から寄付を集め,
寄付者による投票によって支援額を決定します.皆さまからのご応募を,お待ちして
おります.
応募するには・・・
1.バードリサーチの会員になっている必要があります.
2.予算書はなし.お金を何に使うかも問いません.
3.調査・研究プランをA4用紙2枚にまとめて,バードリサーチに送ってください.
様式はありません.一般の人にも分かりやすく,研究の面白さを伝えてください.こ
の生態を明らかにしたい,こんなことがきっとわかる.それでOKです.詳細は募集要
項をご覧ください.(10月31日締切)
募集要項は下記のどちらかをご覧ください.
PDF(423KB)
http://www.bird-research.jp/1_event/aid/BR-aid_plan.pdf
ホームページ
http://www.bird-research.jp/1_event/aid/index.html
【高木憲太郎】
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5.◆生態図鑑◆ コガラ
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○英名:Willow Tit
学名:Poecile montanus
○分類 スズメ目 シジュウカラ科
○鳴き声
地鳴きはツツディーディー,ディーディー,ヒッヒッ,チッチッなど.さえずりは
ヒーコーヒーコー.
○繁殖システム
一夫一妻で繁殖.ヒナへの給餌は雌雄ともに行う.繁殖期は5~7月頃.繁殖期には
約1.2haのなわばりを構える.
○巣
地上1~6mほど,直径6~10cmほどの立ち枯れ木の幹や枝で営巣する.他のカラ類と
違い,自力で樹に穴を掘って巣をつくる.
○コガラが餌場で鳴く理由
コガラは秋から春にかけて,他のカラ類(シジュウカラ,ヤマガラなど)やゴジュ
ウカラ,キツツキ類(コゲラやアカゲラ)とともに混群を形成します.混群は,森の
なかの餌パッチを次から次へと移動していきますが,よく観察していると,その動態
には規則性があることに気づきます.コガラが先立って新しい餌パッチへと移動し,
それにシジュウカラやゴジュウカラ,キツツキ類などが追従してゆくのです.庭先に
ヒマワリやアワをまき,混群の形成過程を観察することもできます.古くから,カラ
類の混群においては,コガラのように体の小さな種が大きな種に追従されることで,
受動的に群れが形成されると考えられてきました.
私は,コガラが新しく餌場をみつけたときに興味深い行動をとることに気づきまし
た.「ディーディーディーディー」と聞こえる特徴的な鳴き声を繰り返し発するので
す.餌資源の枯渇する冬場には,餌場を独占した方がいいように思えますが,その鳴
き声は他個体に餌場の場所を教えているようにも聞こえます.それとも,威嚇のため
の鳴き声なのでしょうか?コガラが何のためにこのような鳴き声を発するのか,私は
この疑問の答えを見つけるために,2006年から2008年にかけて野外研究をおこないま
した.
まず,調査地の林内に餌皿を設置し,ヒマワリの種子を入れ,それを発見したコガ
ラの行動を詳細に観察しました.計45回の観察をおこなったところ,コガラはヒマワ
リをみつけるといつでもディーディーと鳴くわけではないことがわかりました.単独
で餌をみつけたときには激しくディーディーと鳴きますが,他の群れのメンバーとと
もに餌場にやってきた場合は,ほとんど鳴き声を発しませんでした.これらの観察か
ら私は,「コガラは他個体に餌場をしらせるために鳴いている」と考えました.もし
威嚇のために鳴いているのならば,他個体が餌場にいるときにより多く鳴き声を発す
ると考えられるからです.
そこで,このディーディーという鳴き声を餌のない場所でスピーカーから再生し,
実際に鳴き声に鳥たちが引き寄せられるか確かめました.対照実験として,ツツディ
ーディーという鳴き声も再生しました.この声は,餌がない状況でコガラが群れのメ
ンバーとの連携を保つために発するコンタクト・コールです.その結果,コガラのデ
ィーディーという鳴き声は,同種のみならず他種(シジュウカラやヤマガラ)も誘引
する効果をもつことがわかりました.興味深いことに,この声に集まる種は,コガラ
とともに混群を形成する種のみでした.一方,ツツディーディーという声には鳥はほ
とんど集まりませんでした.つまり,彼らはコガラの鳴き声の微細な違い(ディーデ
ィーとツツディーディー)から餌の有無を判断し,スピーカーに近づいたと考えられ
ます.
混群をつくって冬を乗り越えることは,コガラにとって利益があります.それは,
他種の警戒声を手掛かりに猛禽類などの捕食者にいち早く気づいたり,うすめの効果
で自身が攻撃される危険性を軽減できたりするからです.たとえ採餌効率が下がった
としても,一羽で餌を食べるよりは,複数で食べた方が安心なのかもしれません.こ
れまで混群は,体の小さな劣位種が大きな優位種に追われることで受動的に形成され
ると考えられてきましたが,本研究から,劣位種であるコガラが鳴き声によって餌の
存在をしらせることで能動的に混群の形成を促していることがわかりました.
【総合研究大学院大学先導科学研究科 鈴木俊貴】
◆その他掲載記事
・全長,尾長,露出嘴峰長,ふ蹠長,嘴高長,自然翼長,平圧翼長,体重
・羽色
・分布
・生息環境
・卵
・抱卵・育雛期間
・非繁殖期
・食性と採餌行動
・ユニークな鳴き声に含まれる複雑な情報
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6.◆参加募集◆ オリジナル調査Tシャツを作ろう!
―Tシャツデザインチーム参加者募集―
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皆さんは普段どんな服で調査をしていますか?寒い冬の調査ではそれぞれにいろい
ろな装備があると思いますが,夏は気軽なTシャツがいいですよね.僕は自分の調査
対象の鳥がデザインされたTシャツが欲しいといつも思うのですが,なかなか気に入
ったものには巡り会えません.きっと,僕みたいな人が他にもいっぱいいる!!そう
信じて,新プロジェクトを立ち上げます.題して,Tシャツデザインプロジェクト!
プロジェクトの目的は,バードリサーチのオリジナルTシャツを作ること.そこで,
バードリサーチTシャツデザインチームに参加して,一緒にデザインしてくれるボラ
ンティアを募集します.ちょっと自慢したくなるようなオリジナルTシャツを一緒に
作りましょう!
バードリサーチのプロジェクトはみんなで楽しく,がモットーです.「デザインを
するのは得意じゃないんだよね」という人は,「この鳥をデザインしたTシャツが欲
しい!」などの希望やアイデア,プリントして欲しい写真などをメールで送ってくだ
さい.デザインチームがカタチにいたします!
デザインボランティアに参加してくださる方,デザインの提案をしてくださる方は高
木(takagi@bird-research.jp)まで
■□■□ オリジナルTシャツの購入方法 □■□■
このプロジェクトでは,iPhoneアプリ「PlatTii」を使用します.「PlatTii」をダ
ウンロードすればアプリ上で注文でき,注文から2週間ほどでお手元に届きます.
本プロジェクト立ち上げにあたり,アプリ内に「バードリサーチの部屋」を設けて
いただきました.画面左上「その他作品」の「カルチャーの部屋」というカテゴリに
あるので,ぜひ見に来て下さい.現在3つのデザインを販売していますが,今後追加
していく予定です.
現在はiPhone,iPadなどをお持ちでないと,購入することができません(Android
版も鋭意開発中とのこと).ネット販売や,研究集会などでの直接販売も検討してい
ます.
黒以外2,980円,黒3,780円(全7色)(送料・税込)
<iPhoneアプリ「PlatTii」のご紹介>
iPhoneだけでTシャツのデザインの編集からアップロードまででき,1枚から気軽に
購入できるアプリ,それが「PlatTii」.このアプリを開発したのは,株式会社バイ
トルヒクマというIT企業.バードリサーチ設立当初から,調査結果の集計システム
を開発していただいたり,最近では調査研究支援プロジェクトにもご支援いただいて
います.
将来的にはTシャツだけでなくマグカップやトートバッグのデザインもできるよう
にしたいとのこと.バードリサーチオリジナルマグカップができる日も近い!?
PlatTii ~自分だけのTシャツを作って購入・販売できるアプリ~
http://urx.nu/coAE
【高木憲太郎】
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7.◆お知らせ◆ 研究集会2014 in大阪 開催します!
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バードリサーチでは,会員の集いとして,毎年研究集会を開いています.今年はフ
クロウ,ツバメ,識別に関する3つのグループ集会を企画しました.ひとつひとつの
集会の人数は少なくなりますが,よりアットホームな雰囲気で楽しんでもらえたらと
思っています.
また,今回はポスター発表も予定しており,現在発表者を募集しています.ご自身
の調査結果を発表してくださる方は神山(koyama@bird-research.jp)までご連絡く
ださい.
研究集会には当日参加もできますが,だいたいの人数を把握するため事前申し込み
にご協力いただけると助かります.事前申し込みされた場合でも,参加するグループ
集会を当日変更することは可能です.
日 時:
研究集会 2014年11月29日(土) 13:00 ~ 17:00
懇親会 18:00~20:00(事前にお申し込み下さい)
会 場:
大阪市立自然史博物館
〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-2
研究集会の詳細,参加申し込みはこちらをご覧ください.
http://urx.nu/cs6i
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8.◆イベント情報◆ 特別展「どうする?どうなる!外来生物」
~カナダガンの事例~
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○外来生物とは
外来生物とは,「人間によって生息域外から導入された生物」のことを指します.
私たち日本人の主食であるお米(イネ)も,動物園にいる動物たちも,本来の生息域
を遠く離れて持ち込まれたものです.これらが農耕地や飼育施設などで管理されてい
るうちは問題は起きません.しかし,近年は管理下から野外に出て定着した外来生物
が数多く報告されるようになり,各地で様々な問題が起きています.外来生物が引き
起こす問題とその対策について,カナダガンの事例をご紹介しましょう.
○カナダガンの生息状況と対策
北米原産のカナダガンは,1970年頃から動物園などで飼育されるようになりました.
野外では,1985年に初めて静岡県富士宮市で2羽が確認され,同年から繁殖し,少し
ずつ数を増やして,2010年には神奈川県や静岡県,山梨県などの湖沼でまとまった羽
数が確認されるまでになりました.日本に自然に渡来する可能性は低く,国内の飼育
施設から逃げ出したと考えられています.2011年から行なわれてきたカナダガン調査
グループの調査により,主な生息地は山梨県河口湖・山中湖と静岡県田貫湖およびそ
の周辺地域で,それぞれ約50羽が生息することや,農作物や牧草への食害とキャンプ
場での糞害が発生していることが明らかとなりました.
本種の増殖率は高く,このまま放置すれば生息数は増加し,それに伴い群れが各地
に拡散し,さまざまな被害が起きることが予想されます.そのため,山梨県富士河口
湖町および静岡県富士宮市は有害駆除の実施を決め,調査グループの協力を得て擬卵
交換による繁殖抑制や生体捕獲をすすめたところ,2014年8月現在の日本での推定生
息数は7羽となりました.早期対策が功を奏したのでしょう.
○どうする?どうなる!外来生物
しかし,このように順調に対策が進む事例はまれです.北米原産のアライグマは,
現在すべての都道府県に生息するまでになり,各地で対策が講じられていますが,な
かなか終わりが見えてきません.
神奈川県立生命の星・地球博物館では,特別展「どうする?どうなる!外来生物」
を11月3日まで開催しています.展示では,前述のカナダガンの事例だけではなく,
哺乳類から植物まで,あらゆる環境に生息する外来生物を紹介するとともに,オオク
チバスやアメリカザリガニなど,各地で取り組まれている対策も取り上げています.
10月18日には,琵琶湖での外来魚対策や各地でのウシガエル対策,チュウゴクオオサ
ンショウウオとの交雑により種の存続が危ぶまれる特別天然記念物オオサンショウウ
オの保全について,実際に活動されている方々からお話しいただく講演会「外来生物
対策の現場から」も予定されています.
このような展示や講演会を通して,外来生物が引き起こす自然への影響を知り,何
が問題で,解決に向けて何をするべきなのかについて考えていただきたいと思います.
【神奈川県立生命の星・地球博物館 加藤ゆき】
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バードリサーチニュース Vol.11 No.9 2014年9月30日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ
〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
TEL & FAX 042-401-8661
発行者: 植田睦之 編集者: 青山夕貴子・高木憲太郎
E-mail: URL: http://www.bird-research.jp/
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