バードリサーチ ニュース

2014年1月号 (Vol.11 No.1)

【 もくじ 】

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1.◆活動報告◆ イカルチドリとコチドリの分布
2.◆生態図鑑◆ シロチドリ
3.◆論文紹介◆ 鼻水をたらすコクガン 真水を飲む
4.◆研究誌紹介◆ 西三河野鳥の会研究年報
5.◆お知らせ◆ 冬鳥アンケートにご協力ください
6.◆図書紹介◆ 地上を走る鳥のなかま
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【 概 要 】

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1.◆活動報告◆ 川によって違う,イカルチドリとコチドリの分布
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 イカルチドリとコチドリは,河川の中州などの砂礫地を利用して繁殖するチドリ類です.しかし,近年,河川の砂礫地の減少によって,彼らの好適な生息地が減りつつあります.どのような砂礫地を回復させ,維持していくことがチドリ類の生息に重要なのかを明らかにすることは,多くの都道府県で減少が懸念されているこれらの種の保全に役立つことが期待できます.そこで,2013年度のバードリサーチ調査研究支援プロジェクトの調査研究プランの一つとして皆様からご支援をいただき,まずは,チドリ2種の分布を複数の河川で調査することから始めました.今回はその結果の一部をご紹介します.
 調査を行ったのは東京都の多摩川,茨城県と栃木県にまたがる鬼怒川,そして長野県の千曲川の3河川です.下流域から上流域にかけて3~5kmおきの堤防上に調査地点を設定し,1地点30分間の観察を行いました.繁殖期の開始時期を考慮して,イカルチドリの調査はおもに4月に,コチドリの調査はおもに5月に行いました.
 結果を見てみると,多摩川では,イカルチドリは上流と下流に多く出現し,コチドリは中流から下流にやや多く出現する傾向が見られました.千曲川では,イカルチドリは上流から下流にかけて広く分布し,コチドリは上流よりは下流側に出現する傾向が見られました.その一方で鬼怒川では,2種ともに上流から下流まで広い範囲で観察されました.
 それぞれの河川において2種の分布に関わる要因は何なのでしょうか?現在検討している要因は,砂礫地を構成する砂礫の粒径や,川幅,堰の有無や植生の繁茂状況です.ほかの要素も含めて,分布との関連を分析するとともに,2014年はこれら2種の巣を探すことで,営巣環境に関わる要因も一緒に調べていく予定です.
【笠原里恵】

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2.◆生態図鑑◆ シロチドリ
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○英名:Kentish Plover
 学名:Charadrius alexandrinus
○分類 チドリ目チドリ科

○生息環境
 海岸の砂浜,河口の干潟,大規模河川の中洲,砂州,干拓地などの砂礫地で繁殖し,砂浜海岸,河口の干潟,河川,湖沼などに渡り期や越冬期に生息する.水辺の砂地,砂泥地を好む.

○繁殖システム・生活史
 繁殖期は3月~7月.一夫一妻で繁殖する.よく似た環境を利用するコチドリやイカルチドリに比べて,粒径の小さな基質(砂礫)を利用する傾向がある.繁殖期にはなわばりをつくり分散するが,なわばりがゆるく集まっていることが多い.
 オスは,地上で水平位になり,冠羽や背の羽毛を起こすディスプレイを行う.また,フライトディスプレイも行うが,コチドリやイカルチドリほどは盛んでない.さらに,オスは砂地に窪みを掘りながらメスを呼ぶディスプレイをする.コチドリなどと異なり,近づいたメスが,オスの開いた尾羽の下に入るのではなく,オスを押し退けて窪みに入る.
 非繁殖期は集団で過ごし,比較的大きな群れになることがある.

○抱卵・育雛期間・繁殖成功率
 全ての卵を産み終えてから抱卵を開始し,主にオスが夜間,メスが日中に抱卵を行う.抱卵期間は24~27日,ヒナは孵化後すぐに歩く(早成性).雌雄ともに育雛を行い,ヒナは27~31日ほどで独立する.年間の成鳥の死亡率は12~40%.繁殖地近くに捕食者が現れた場合に,親は擬傷行動をとり,巣やヒナから注意をそらせるようにふるまう.
 三重県での1996~1998年の調査によると,孵化巣率(孵化したヒナがいる巣の率)は合計で13.3%(9.1~23.8%)と高くない.しかしながら,東京湾岸でコアジサシのコロニー付近に営巣した場合に,孵化率が約80%の高率になったとの報告がある.

○個体数の減少
 2012年8月,第4次のレッドリストの改訂が環境省から発表され,シロチドリは絶滅危惧Ⅱ類に指定された.
 現在も全国的に分布し,観察される機会も少なくないが,シロチドリは以前から著しい減少が懸念されていた.環境省が実施した繁殖分布調査では,繁殖の確認されたメッシュ数は,1974~1978年の74メッシュから,1997~2002年45メッシュに減少している.天野による1974~85年と2000~03年の間の変化率を全国のカウント調査から示した報告では,シロチドリが春期で-75%,秋期で-88%と極端に減少していることが示されている.また,Amano et al.による同様の全国調査の結果を用いた分析では,2008年時点で,春期,秋期とも1970年台から継続してシロチドリが減少していることが示されている.さらに,環境省が実施しているモニタリング調査の2013年春期までのごく最近の結果でも,断続的に個体数が減少傾向にあることを示している.
 減少の原因としては,繁殖場所となる砂浜,砂礫地の減少のほか,平井らは,生息地のレジャー利用による人やペットの接近,車両による営巣地の撹乱,ノイヌやカラスなどによる捕食などを繁殖失敗の要因としてあげている.対策としては,シロチドリの繁殖地であることを広報するなどし,営巣地の撹乱防止に協力してもらうことが望ましい.

【守屋年史 バードリサーチ 研究員】

◆その他掲載記事
 ・全長,自然翼長,尾長,ふ蹠長,嘴峰長,体重
 ・羽色
 ・鳴き声
 ・分布
 ・巣
 ・卵
 ・食性と採食行動
 ・日本に生息する亜種

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3.◆論文紹介◆ 鼻水を垂らすコクガン真水を飲む
               ~インターバルカメラの底力~
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 小学生のころ,僕はアレルギー性鼻炎が酷く,2日に1箱のペースでティッシュを消費していました.鼻水がたくさん出ると喉が渇くのか,当時はたくさん水分をとっていました.その頃ほどではないものの,今も鼻炎に悩まされている僕にとって他人事ではないコクガンの論文が出されたのでご紹介します.
 コクガンは,冬鳥として函館湾や南三陸沿岸などにやってきて,浅い海や内湾などでアマモやアオサ,アオノリなどを食べています.そして,アマモなどと一緒に多くの塩分を取り込みます.そのため,血中の塩分濃度を下げる必要があります.彼らは,塩類腺がよく発達しており,体内に取り込んだ過剰な塩分を鼻孔から体外へ排出することができるそうです.
 しかし,それだけでなく,河口域などで真水を飲むことが知られています.この真水を飲む行動(飲水行動)は,数分間という短い時間で行われることが多く,調べるとなると,ずっと観察していなければいけません.
 嶋田さんたちは,デジタルカメラのインターバル撮影の機能を利用しました.使用した機種はPENTAXのOptio WG-1GPS.140mm望遠レンズを用いて,既知の水飲み場の2分ごとのインターバル撮影を行ったところ,2013年1~2月に宮城県気仙沼市の日門海岸と大谷海岸でコクガンの飲水行動を捉えることに成功しました.
 その結果,朝の8時頃をピークとして,日の出から9時ごろまでに頻繁に飲水行動が記録されました.その一方で日によってばらつきもあり,日中に数羽の群れで飲水している日もあることがわかりました.コクガンたちは夜の間にたくさん鼻水を垂らして,朝になると喉が渇くのでしょうか?日によって飲水する時間にばらつきがあるのはなぜでしょうか?ごく短い行動の中に,新しい研究テーマが眠っているのかもしれません.
【高木憲太郎】

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Shimada, T., Kurechi, M., Suzuki, Y., Tokita, K. & Higuchi, H. 2013. Drinking behaviour of Brent geese recorded by remote interval photography. GOOSE BULLETIN 17: 6-9.
http://www.geese.org/gsg/goose_bulletin.html
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4.◆研究誌紹介◆ 西三河野鳥の会研究年報 Vol.16 2013
                 西三河野鳥の会 定価 600円
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 西三河野鳥の会より,今年発刊された研究年報をご寄贈いただきました.ありがとうございます.
 本誌は,西三河野鳥の会の会員による観察記録や研究成果がまとめられたもので,毎年発刊されています.きれいな写真を多数使用して,愛知県の初記録や県内の分布状況など,地域の情報を発信しています.今年発刊された第16巻には,ハシボソミズナギドリなどの海鳥の死体の渥美半島での漂着状況をまとめたものや,ミサゴの繁殖の愛知県初記録など5本の報告が掲載されています.
 他の地域に根差した研究誌と同じく,本誌も貴重な観察記録を埋もれさせたくないという思いから編纂されています.鳥類の生息状況について,過去にさかのぼって長期的な変化を調べようとすると,文献として記録が残っていることがとても重要です.最先端の研究成果だけでなく,地域の方の地道な観察記録を後世に残していこうという活動が全国で続いていくといいなと思っています.
 紹介した研究誌の掲載内容や,入手の方法は下記のホームページをご覧ください.購入してもらえれば,継続のための力にもなると思います.
【高木憲太郎】

■西三河野鳥の会
http://nbird.nhki.net/

購入についての問い合わせ先
西三河野鳥の会
販売担当 野田信裕
Tel: 0565-21-3752
E-mail: nbird@nhki.net

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5.◆お知らせ◆ 冬鳥の飛来状況のアンケートにご協力ください
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 今年の秋は各地からイスカの情報が届いたり,北日本ではベニヒワが多いとの情報が寄せられたりしました.ツグミも例年通り飛来したので「昨年に続き,今年も冬鳥が多いのかな」と思ったのですが,その後,関東ではツグミを見なくなり,今では逆に鳥が少ない感じがしています.年末からようやくツグミは普通に見られるようになりましたが….
 今年は山の木の実は豊作なようです.まだ鳥たちが山から下りてきていないのでしょうか?それとも繁殖成績が悪く,冬鳥たちの個体数が少ないのでしょうか?
 そこで,昨年に引き続き,冬鳥のアンケート調査を実施したいと思います.対象は右記の鳥たち.みんなで今年の冬鳥の動きを明らかにしてみませんか.ご参加よろしくお願いいたします.
【植田睦之】

<冬鳥アンケート>
対象種:ツグミ,シロハラ,ヤマガラ,ヒガラ,キクイタダキ,ウソ
内容:観察地点と,対象種が少なかったか,例年どおりだったか,多かったかなどを選択するだけの簡単なものです.

以下のHPより情報をご送信下さい.
http://www.bird-research.jp/1/fuyudoriq.html

例年通り、冬鳥ウォッチも行なっています.こちらはカシラダカ,マヒワ,アトリ,イスカ,ハギマシコ,カワラヒワが対象です.よく探鳥に出かけるフィールドで越冬期間に観察できた大まかな群れの数を記録するものです.マイフィールドをお持ちの方はこちらへもご参加ください.
http://www.bird-research.jp/1/fuyudori/

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6.◆図書紹介◆ 地上を走る鳥のなかま(知られざる動物の世界9)
        樋口広芳 監訳/朝倉書店 定価 3,400円(税別)
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 鳥といえば,大空を自由自在に飛び回っている印象がありますが,飛ぶことをやめてしまった,もしくは飛ぶことはできるけれどほとんど飛ばない鳥もいます.そんな地上を主な生息場所としている鳥たちの生態を解説したのが,今回ご紹介する「地上を走る鳥のなかま」です.
 ひと口に地上を走るといっても,その姿や形は様々です.ダチョウやヒクイドリに代表される,丸いからだに短い尾,長く頑丈な足を持ち,力強く走り回る走鳥類から,1000万年前の化石も発見されている非常に系統の古いシギダチョウ目,隠ぺい性の高い羽色を持ったメスと相対的に派手な色や姿のオスがいるキジ目(たとえばインドクジャクやキジオライチョウ),優雅に歩くノガン,警戒心のとても強いミフウズラや独特の威嚇行動をとるカグー,実は飛ぶことも上手なツバメチドリやスナバシリ,長い尾が印象的なコトドリや,姿を見ることがとても難しいクサムラドリなど,多くの鳥がこの本で取り上げられています.そんな名前,初めて聞いたよ,という鳥に多く出会えるのもこの本の魅力です(だって,「知られざる動物の世界」シリーズですから).
 それぞれの種の生態や分布等の基礎的な記述だけではなく,求愛行動や鳴き声,歴史などに関する掘り下げた興味深い知見にも言及されています.そして,多くの地上性の鳥類が直面している問題,例えば生息地の開発や農地への転換もしくは集約化,農業方法の変化,化学薬品の使用,大きな車での行楽,人が持ち込んだ動物による捕食や環境改変,そして狩猟や密猟といった,人間活動から受ける様々な影響にも触れられています.
 地上性の鳥が好きな方々はもちろん,漢字にふりがなはないのですが難しい用語には解説がありますので,小・中学生にもお勧めの1冊です.
【笠原里恵】


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バードリサーチニュース Vol.11 No.1  2014年1月31日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ

〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
TEL & FAX 042-401-8661
発行者: 植田睦之       編集者: 青山夕貴子・守屋年史
E-mail:  URL: http://www.bird-research.jp/
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