バードリサーチ ニュース

2012年5月号 (Vol.9 No.5)

【 もくじ 】

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1.◆参加型調査◆ 鳴きまね調査はじめます!
   コジュケイ,ツクツクボウシを真似るキビタキとガビチョウ
2.◆図書紹介 ◆ 生態進化発生学―エコ‐エボ‐デボの夜明け
3.◆研究誌より◆ 今月の新着論文
4.◆活動紹介 ◆ 河川環境はヒクイナにとって楽園?
                ―最近のヒクイナ調査から―
5.◆生態図鑑 ◆ イヌワシ
6.◆論文紹介 ◆ 渡り性水鳥類の渡来地の保護区指定状況
7.◆活動報告 ◆ 福島第一原発周辺のツバメたち
             -無人の町でも営巣していました-
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【 概 要 】

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1.◆参加型調査◆ 鳴きまね調査はじめます!
   コジュケイ,ツクツクボウシを真似るキビタキとガビチョウ
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 キビタキはコジュケイやツクツクボウシ,その他の鳴きまねをする,と言われることがあります.特に,コジュケイの鳴きまねは,ソナグラムでみても,とても似ています.そして,鳴きまねと言ったら,ガビチョウです.
 彼らが後天的に「鳴きまね」相手の声を学習してマスターしているとしたら,いったいどこで覚えて来るのでしょうか?巣の近くでコジュケイやツクツクボウシなどが盛んに鳴いていて,ヒナの間にその声を覚えるということはありそうです.だとしたら,鳴きまね相手がいるところでは,高い確率で鳴きまねしているキビタキやガビチョウが観察されるのでは・・・.そこで,キビタキとガビチョウの鳴きまね分布を調べ,コジュケイやツクツクボウシの分布と照らし合わせてみたいと考えました.

○鳴きまね分布調査
 キビタキとガビチョウが,コジュケイとツクツクボウシ,それから,ウグイスの鳴きまねをしていた位置の情報を集めます.ウグイスは,よくガビチョウが真似ていますが,コジュケイなどに比べて広く分布しているので,比較対象として使います.ホームページの鳴きまね分布調査のページの真ん中にある紫色のボタンから送信フォームを開いてお送りください.もし,鳴きまねしている声を録音しているようでしたら,音声ファイルを送っていただけると助かります.だいたいの場所が思い出せるようでしたら,昨年以前の情報もご提供ください.ご協力よろしくお願いいたします.

○鳴きまねボックス
 鳴きまね分布調査のついでに,鳴きまねデータベースをみんなでつくろう!というプロジェクトです.このプロジェクトでは,対象種は限定しません.どの鳥が何の鳴きまねをしていたか,情報を集めて,組み合わせのリストを作成することを目的とします.また,鳴きまね音源も集めようと思います.情報をお持ちの方は,高木(takagi@bird-research.jp)まで,どの鳥が何の鳴きまねをしていたかメールで教えてください.音源をお持ちの方は,電子ファイルを高木宛てにお送りください.その際,できるだけ,該当の部分だけを切り出した短いファイルでお願いできると助かります.集まった情報は,下記のページに掲載します.ぜひ,ご参加ください.
【高木憲太郎】

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■鳴きまね分布調査のページ
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kibitaki/manebunpu.html

■鳴きまねボックスのページ
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kibitaki/manebox.html
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2.◆図書紹介◆ 生態進化発生学―エコ‐エボ‐デボの夜明け
        スコット F. ギルバート,デイビッド イーペル 著
            /東海大学出版会 定価 6,090円(税込)
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 生物の可塑性とエピジェネティクス,それを引き起こす化学物質や放射線などさまざまな環境要因について,多数の実例とイラストをつかってみごとに明快な解説を,本書は披露してくれる.ダチョウの腹タコが生まれたときからあるとか,最新のダーウィンフィンチのくちばしの分子進化発生学の成果とか,恐竜との系統関係を決定づけた研究とも関連する鳥の指の進化発生学の成果とか,鳥の話題も興味深いし,ほかの生物のいろいろな実例もイラストでわかりやすく解説されている.本書は,今,わたくしたち日本人がとりくむべき福島第一原発事故の問題にも多くの面で参照できる.DNAなどの実験は,ほとんど実験室の極めて限られた条件で行われるが,生物は自然の複雑な環境の中で,他の多くの生物や変動する環境に対応しながら可塑性を発揮する.環境の中で確認する重要性を本書は強調している.詳細できれいなイラストが多数もちいられた「絵本」なのに,内容は科学だ.エピジェネティクス,いわゆる環境ホルモンの科学的課題や,一般を説得するための社会的な心構えなどまで,造詣の深い内容が網羅されている.この翻訳書にはほとんど欠点がみられない.ページ数などが原著に近い体裁で,日本語としても読みやすく,文学的な香りも感じられる.ぜひ,鳥好き,自然好き,そして少しでもこのすばらしい自然を後世にも残したいという気持ちのあるなみなさんに手にとっていただきたい.
【東京大学大学院農学生命科学研究科 石田健】

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3.◆研究誌より◆ 今月の新着論文
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籠島恵介. 沖縄本島におけるメジロによるハイビスカス花への盗蜜被害率の周年変化. Bird Research 8: S5-S9
------------------------------------------------------- この研究は沖縄本島でメジロがハイビスカスの花を盗蜜する頻度を年間をとおして記録したものです.すべての調査地において冬期の盗蜜被害率が他期より有意に高く,食物の少なくなる時期に盗蜜することが多くなると思われました.しかし場所によっては春夏期にもよく盗蜜することがあり,冬も桜が咲くと盗蜜が減るなど,単純ではありません.籠島さんはハイビスカスの品種や,人による攪乱など,いろいろなことがメジロが盗蜜するかどうかに影響していると考えていますが,今後の研究の発展に期待したいと思います.

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福田道雄. 染色標識で個体識別して調べたオナガガモの都市公園池での飛来状況. Bird Research 8: S11-S14
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 上野公園不忍池は,給餌でオナガガモがたくさん集まっているのが有名です.オナガガモがどのくらい給餌に依存しているのかを調べたのがこの研究です.給餌にべったり依存しているように思いがちですが,この研究の結果は多数のオナガガモは断続的に不忍池を利用していて,給餌にべったり依存している個体は少数だということを示してます.なぜ依存しないのか不思議ですね.栄養のバランスなどちゃんと考えて,ほかに採食に行くのでしょうか?それとも楽に餌がもらえると思いがちですが,個体間の競争が激しく長居できないのでしょうか?興味深いですね.
【植田睦之】

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4.◆活動紹介◆ 河川環境はヒクイナにとって楽園?
                ―最近のヒクイナ調査から―
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 ヒクイナは,徒然草にもその鳴き声が登場するほど日本人にとって馴染みの深い鳥の一つです.ところが,1990年代になると,その繁殖分布は全国的に縮小し,2006年の環境省のレッドリスト改訂では絶滅危惧種に選定されるほどでした.しかし,近年では,特に西日本を中心に生息状況が回復傾向にあることがわかっています.
 兵庫県神戸市付近の調査地では,ヒクイナは1年を通して溜池や河川に約70羽以上生息しており,特に中規模河川には溜池や小規模河川,農地などに比べヒクイナの生息数が多いことがわかりました.しかし,中規模河川でのその後の継続調査から,河川環境は常にヒクイナにとって好ましい生息環境ではないかもしれないという結果が得られつつあります.以下に簡単に紹介したいと思います.

○河川に生息するヒクイナの個体数
 調査は,神戸市西区の明石川約10kmで,録音再生法をもちいて調査しました.2008年11月後半から2011年6月までのヒクイナの記録個体数を冬期(11月下旬から2月)と繁殖期(4月から6月上旬)にわけたところ,2008年の冬期とそれに続く2009年繁殖期では記録個体数は平均34.8羽と31.6羽でしたが,翌年の2009年冬期,2010年繁殖期では著しく減少してしまいました.さらに,2010年冬期,2011年繁殖期ではやや増加しました.このように,明石川の調査地では年によって著しい変動が見られました.
 一方,明石川に隣接する農耕地の溜池と湿地合計15か所で調査を行なったところ,年によって多少変動があるものの,8~11羽でさほど大きな変化がないことがわかりました.では,明石川におけるヒクイナの変動の理由は何と関係しているのでしょうか.

○河川と溜池の違い
 調査地一帯の溜池の調査から,ヒクイナの生息の有無は,湿地性植物の面積と関係していることが示唆されています.そこで,著しい個体数の変動があった2008年冬期と2009年冬期の明石川の各録音再生地点の湿地性植物の面積を比較しました.その結果,各調査地点の湿地性植物の面積は,2008年のほうが2009年より有意に広いことがわかりました.さらに,明石川の水位を調べたところ,2009年7月19日と8月2日に豪雨による著しい水位の上昇があることがわかりました.この洪水で中州や流れの岸辺が削られ,湿地環境が激減してしまい,2009年冬期以降にヒクイナの生息数が減少したのではないかと考えられます.一方,溜池や農地の湿地では洪水の影響がないため,ヒクイナの個体数は大きな変動がなかったのだと考えられます.
 明石川に限らず河川環境は出水によって著しく変動します.そのため,河川に生息するヒクイナは,常に環境の変化にさらされていると言えるのではないでしょうか.ヒクイナの生息状況と河川の水位,湿地性環境の面積などとの関係をさらに明らかにするため,今後もヒクイナの個体数や水位のモニタリングを続けていきたいと考えています.
【渡辺美郎・平野敏明】

◆引用文献
渡辺美郎・平野敏明.2011.神戸市西区周辺におけるヒクイナの生息状況.Bird Research 7: A45-A55.

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5.◆生態図鑑 ◆ イヌワシ
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○英名 Golden Eagle     学名:Aquila chrysaetos  
○分類 タカ目 タカ科 イヌワシ属

○羽色
 成鳥は,全身が黒褐色.後頭部が金褐色で,英名Golden Eagleの由来.幼鳥は,翼と尾羽の基部に明瞭な白班があり,白班の形状は個体差が大きい.幼鳥から成鳥の羽衣になるには数年かかる.成鳥の虹彩は黄~橙褐色,幼鳥は暗褐色.

○分布
 北米,ユーラシア大陸,北アフリカなど北半球に広く生息する.イヌワシは6亜種からなり,日本に生息するのは最もサイズの小さい亜種ニホンイヌワシA. c. japonica で,北海道,本州,四国,九州の山岳地帯に生息するが,四国と九州は少ない.

○繁殖システム
 一夫一妻性でペアは非繁殖期も一緒に行動することが多い.繁殖活動は,晩秋から初冬に始まり,ペアは波状飛行などによるディスプレイ飛行をさかんに行い,巣のある谷で一緒にねぐらをとるようになる.営巣場所は急峻な崖の岩棚や大木で,行動圏内に1~数個の巣を持つ.年によって異なる巣を使うペアもいるが,ペアが交代しても同じ巣を使い続ける例も多く知られており,国内では100年以上,国外では300年以上の報告がある.枝を組んで直径100~200cmの大きな巣を作り,巣の中央部の産座には産卵前になると青葉を敷く.イヌワシは本来毎年繁殖するが,近年では隔年~数年に1回しか繁殖しないペアが増えている.

○巣立ち率:
 日本イヌワシ研究会によって,全国のイヌワシ巣立ち率が調べられている.1981~1990年は平均44%であったが,1991年以降は20%を下回る年もあり急激に低下している.生息地から消失するペアも増えているが,隣接ペアが行動圏を拡大し消失ペアの行動圏を利用することが多いため,観察者がペアの消失に気がつかない場合がある.
 イヌワシの繁殖阻害要因は,人の接近による卵やヒナの死亡,ツキノワグマによるヒナの捕食,化学物質による影響が疑われるなど多岐にわたっているが,最も重大な要因は獲物と狩場の減少と考えられている.大規模開発と並び,放置人工林の増加が大きな影響を与えている.日本の潜在自然植生は広葉樹が主体であり,日本の本来の生物相はその上に成立してきたが,戦後に大規模造成されたスギ・ヒノキ・カラマツなどの単純な人工林が管理されずに放置され,森林生態系が単純化し生物多様性が失われている.スコットランドにおいても,行動圏の35%が針葉樹人工林で覆われると繁殖しないペアが増え,40%をこえると行動圏を放棄するペアが増えるなど,人工林の増加が巣立ち率を低下させることが示されている.

○食性と採食行動
 長い強靭な脚を使って中~大型の鳥や獣を補食する.主要な獲物は,ノウサギ,ヤマドリ,大型のヘビで,その他にテン,キツネ,アナグマ,カモシカの幼獣など.生きた獲物だけでなく死体も食べる.必要な食物を得るために広大な行動圏を必要とする.
 イヌワシの狩りについて,飛行しながら獲物を探しているのを観察する機会が多いため,主に飛びながら獲物を探すと考えられているが,私達が滋賀県で行なった調査では,広く見渡すことのできる場所に止まって獲物を探している時間が長かった.また,一羽が獲物を追い出しもう一羽が飛び出した獲物を捕らえるなど雌雄が協力して狩りを行なうことも特徴的である.

○カイニズム(兄弟殺し)
 イヌワシは,1卵目を産んでから3日くらいの間隔をあけて2卵目を産む.第1卵を産むとすぐに抱卵を開始するため,2羽のヒナの孵化には3日程度の間隔がある.先に孵化した第1雛は,後から孵化した第2雛が親鳥から餌をもらうために頭を挙げようとすると嘴でつついて攻撃する.その結果,第2雛は餌を食べられずに衰弱死する場合がある.この行動は,イヌワシ属やハイタカ属など多くの猛禽類で確認されており,「カイニズムcainism」「兄弟殺しsiblicide」などと呼ばれる.北米など大陸のイヌワシでは,2羽とも巣立つことが多いのに対して,日本では多くの場合ふ化後10日程度で第2雛が死亡し,2羽が巣立ちした例は少ない.抱卵・育雛期の食物量がカイニズムの発生や頻度に影響すると考えられているが,食物豊富な地域や飼育下のように,十分な餌量があってもカイニズムは起こる.この不思議な行動の意味や第2雛の役割などについては諸説があり,まだ解明されていない.
【須藤 明子(株式会社 イーグレット・オフィス )】

◆その他掲載記事
 ・全長,翼開長,体重
 ・生息環境
 ・抱卵・育雛
 ・ウィンドファーム建設問題
 ・環境汚染物質の影響

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6.◆論文紹介 ◆ 渡り性水鳥類の渡来地の保護区指定状況
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 モニタリングサイト1000のガンカモ類調査とシギ・チドリ類調査をもとに,彼らの主要な生息地である湖沼や河川,干潟などがどれくらい鳥獣保護区などの指定を受けているのかを分析した論文が,日本鳥学会誌に掲載されましたので,ベースとなった環境省委託業務の成果と合わせてご紹介します.

○希少鳥類の保護状況
 バードリサーチでは平成22年度に環境省から,希少鳥類の分布域がどれくらい保護区に指定されているかを調べる調査を受託しました(2011年2月号参照).この業務では,モニタリングサイト1000の調査成果などのほか,地域のグループから調査してきた成果などをご提供いただき,巣の位置や観察地点,海鳥類の集まる主要な生息地(調査サイト)の位置情報をGIS上で,鳥獣保護区や国立・国定公園のポリゴンデータと重ね合わせました.
 調査した種は,海鳥,離島に生息する鳥類,河川湖沼に生息する鳥,干潟に生息する鳥,南西諸島の陸鳥,猛禽類などを含めて19科45種です.
 かなり大雑把な集計ですが,海鳥や離島の鳥,湖沼河川の鳥の生息地は鳥獣保護区や国立・国定公園などの恩恵を高い割合で受けていた一方で,干潟に生息する鳥や南西諸島の陸鳥は保護区などに指定されている地域以外にも広く分布していることがわかりました.

○保護の必要な場所
 論文では,環境省からの委託業務で調査したもののうち河川湖沼の鳥と干潟の鳥について,希少種以外も含めて,より詳しい解析を行ないました.彼らが多く集まるところほど,また,希少種が多く利用するところほど,その場所の環境悪化の影響が大きいため,優先的に保護されるべきです.そこで,ガンカモ類調査の河川湖沼など84サイト,シギ・チドリ類調査の干潟や水田など152サイトのうち,どこがより重要なのか,4つの指標で表現し,保護状況を分析しました.
 指標としたのは,1)各サイトに渡来する渡り性水鳥類の総個体数,2)ラムサール基準値またはフライウェイ基準値を超えた個体数が確認された年が2005~2009年の間に3年以上あった種の数,3)希少種と近年減少が著しくレッドリストへの指定に相当するシロチドリ,ハマシギ,チュウシャクシギの3種を加えた13種が記録された数,4)あるサイトが消失した時にどれだけ希少種にダメージを与えるかを評価するために設けた「寄与率」の4つです.
 鳥獣保護区や国立・国定公園などに指定されていたサイトは,湖沼河川の58.3%,干潟の34.2%でしたが,湖沼河川では4つの指標とも重要性が高いところが保護されていました.一方,干潟では重要性が高いところも他の場所と同様にあまり保護されておらず,特に西日本に多くみられました.この論文では,寄与率の上位10位にあって,シギ・チドリ類の希少種等8種中7種以上が記録されている大授搦(佐賀),曽根干潟(福岡),泡瀬干潟(沖縄),宇佐海岸(大分),大阪北港南地区(大阪府),白川河口(熊本)は優先的に保護区域に指定される必要があるとまとめています.
【三上かつら・高木憲太郎】

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三上かつら・高木憲太郎・神山和夫・守屋年史・植田睦之.
2012.渡り性水鳥類の渡来地の保護区域指定の現状.
日本鳥学会誌 61: 112-123.
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7.◆活動報告 ◆ 福島第一原発周辺のツバメたち
          -無人の町でも営巣していました- 

 5月12~15日まで,福島県の南相馬市と飯舘村の周辺で米国サウスカロライナ大学のティモシー・ムソーさんのツバメ調査に同行してきました.ムソーさんは,メラーさんとともにチェルノブイリでツバメと放射線の関係を調べた方です.
 私は通訳&ドライバーとしてお手伝いしただけで研究には関わっていないのですが,いろいろな場所でツバメの営巣状況を見ることができましたので,それについて報告をしたいと思います.

○大切にされているツバメたち
 今年の3月にツバメの巣から放射線が検出されたという報道があったので,巣が落とされているかもしれないと心配していたのですが,南相馬市のJR原ノ町駅前の通りにはツバメの巣が連なっていましたし,道の駅そうまにも10巣ほどの集団営巣がありました.そして古い民家が多い南相馬市の農村地帯でも,ツバメの大家さんたちは以前と変わらずツバメの子育てを楽しみにされていました.調査で訪ねた地域では水田耕作が取りやめられていたのですが,ツバメが巣作りするのに泥が必要だろうと自宅前の水田に水だけ張られている方もいらっしゃいました.もちろん巣の見つかったお宅しか訪問していないので,実際には巣落としもあったのかもしれませんが,このような状況でも多くの皆さんがツバメを大切にしていることが分かりました.

○住民が避難した町でも営巣している
 飯舘村は全住民が避難している地域です.ツバメが飛んでいる姿はあまり見かけなかったものの,よく探してみると巣を見つけることができました.飯舘村は標高が400m以上あって夕方の気温が1度まで下がるほど寒かったので,ツバメが繁殖するにはまだ早かったのかもしれません.
 南相馬市の小高地区も全住民が避難している地域で,商店街の通りには震災前はツバメの巣が多かったそうです.私が訪れたときは,崩壊した建物の内部に作られた巣が数カ所見つかりました.また商店街から道を隔てた住宅地にもポツポツと営巣が見つかり,営巣密度はそれほど低くはない印象でした.
【神山和夫】

◆その他掲載記事
・避難地域での鳥たち

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バードリサーチニュース Vol.9 No.5  2012年5月31日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ

〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
TEL & FAX 042-401-8661
発行者: 植田睦之       編集者: 守屋年史
E-mail:  URL: http://www.bird-research.jp/
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