バードリサーチ ニュース

2012年2月号 (Vol.9 No.2)

【 もくじ 】

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1.◆活動報告◆ 冬の小鳥の調査時刻はいつが良い?
2.◆レポート◆ 外洋のはえ縄漁業に伴う海鳥への影響
3.◆図書紹介◆ 神奈川県定線センサスⅠ 10年間のまとめ
4.◆生態図鑑◆ カンムリワシ
5.◆活動報告◆ モニ1000 ガンカモ類調査交流会開催!
6.◆図書紹介◆ 田んぼの生きものたち ツバメ
7.◆論文紹介◆ 放射線量と鳥の個体数~チェルノブイリvs福島~
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このページは,ニュースレターの概要版です.
この号は正式版もお読みいただけます.
http://www.bird-research.jp/1_newsletter/dl/BRNewsVol9No2.pdf

【 概 要 】

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1.◆活動報告◆ 冬の小鳥の調査時刻はいつが良い?
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 繁殖期,鳥は早朝に活発にさえずります.効率的に調査するには早朝の調査が欠かせません.しかし,冬はどうでしょうか? 「繁殖期ほど早い時間帯だけが調査に適しているというわけではなさそうだ」というところまではなんとなくわかっているのですが・・・。そこで,冬の森の鳥の活動状況の日周変化を調べてみましたので,ご報告します.

○ライブ配信音の聞き取りと現地での調査
 調査は2つの方法で実施しました.1つめは,東大の斎藤さんたちが運用している森林のライブ音配信のシステムを使った調査です.長野おたの申す平と埼玉秩父からのライブ音を聞き取ってみました.お正月の3日間,部屋の中で焼酎なぞちょっと飲みながら,おたの申す平は,7,9,11,13,15時と2時間おきに10分間,秩父は配信が行なわれる7時,12時,16時に1分刻みで声の聞こえた種を記録しました.
 2つめは,目視での観察.秩父演習林で1月11日と2月1日に,終日調査を実施し,7,9,11,13,15時に2か所の定点で10分間のあいだに見聞きできた種を,2分刻みで記録しました.

○冬,鳥が活発に行動する時間帯は?
 1日を通して出現種数には大きな変化はありませんでした.つまりどの時間に調査しても得られる結果に大きな違いはなさそうです.意外だったのは,冬も朝から鳥が活発に活動していること.日の出直後は寒いのうで,あまり鳥の活動は活発でない印象があったのですが,7時の調査でも多くの鳥が記録され,逆に記録が多いほどでした.
【植田睦之】

◆その他掲載記事
 ・個体数の代わりに出現頻度でデータをみる
 ・長期モニタリングなどの調査方法の改善に役立てる

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2.◆レポート◆ 外洋のはえ縄漁業に伴う海鳥への影響
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○混獲とは?
 マグロはえ縄漁船などが投縄するときに,海鳥が餌を狙い集まってきて,その餌を飲み込む,鈎(はり)に引っ掛かるなどして,誤って漁獲されることを,混獲(bycatch)という.混獲は,海鳥個体群の減少要因の一つとして考えられており,適切な保護方法を考える必要がある.このようなことから,多くの混獲回避技術が,海鳥の保護のために開発されてきた.一方で,どの場所でどの種をどの程度混獲しているかといった現状や,どのようなメカニズムで混獲が起きているかなどを示すことも,適切な混獲回避の導入のために重要な知見となる.

○オブザーバーデータを用いて混獲分布を示す
 マグロはえ縄漁船などには,科学オブザーバーと呼ばれる,船上でデータのとり方のレクチャーを受けた調査員が同乗し,漁獲物や混獲物のデータを採集する.我々は,1997~2010年の間に,大西洋上で操業する日本船に同乗したオブザーバーが採集したデータを用いて,海鳥の混獲分布が多い地域や混獲の多い季節,海鳥種間の相互作用などについて検討した.海鳥の種判別については,オブザーバーが撮影した写真に基づき,本研究所の研究員が判別を行った.

○大西洋における海鳥の混獲
 1997~2010年の間,全3287操業,785108鈎を観察した.大西洋で混獲された海鳥のうち,アホウドリ類は全体の83.3%,ミズナギドリ類は全体の17.9%を占め,はえ縄漁業における海鳥混獲のほとんどが,アホウドリ類,ミズナギドリ類であった.最も混獲された種は,ハイガシラアホウドリで286個体,続いてハジロアホウドリ(179個体),マユグロアホウドリ(142個体)が混獲されていた.
 アホウドリ類,ミズナギドリ類のBPUE(1000鈎当たりの混獲数)は,4~9月の南緯30度以南で高かった.これは,アホウドリ類,ミズナギドリ類の分布に依存した結果と考えられる.また,10~12月には,一部の種においてナミビア沖でBPUEが高い区域が認められた.

○今後
 このように,オブザーバーデータを解析することによって,混獲分布やそのメカニズムについて考察できることがある.今後とも,混獲分布に関連する要因を特定していくことが,混獲の起こるメカニズムを議論する上で重要となってくるだろう.また,混獲が起こる確率の高い区域「混獲ホットスポット」を特定し,その海域に重点的に混獲回避措置を取るといった対応をしていくことが,より効果的なアホウドリ類への保護,漁業との共存に繋がると考えられる.
【国際水産資源研究所
 かつお・まぐろ資源部混獲生物グループ 井上裕紀子】

◆その他掲載記事
 ・巣立ち直後の時期に多くなる混獲
 ・ノドジロクロミズナギドリがアホウドリを罠にかける?

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3.◆図書紹介◆ 神奈川県定線センサスⅠ 10年間のまとめ
日本野鳥の会神奈川支部 580円(送料込)
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 日本野鳥の会神奈川支部からご寄贈いただきました.ありがとうございます.鳥類の生息状況の変化を客観的なデータとして残すためには,一定の場所での長期にわたる観察と記録が必要になります.故浜口哲一さんが提唱され,日本野鳥の会神奈川支部の有志約100名と10グループが10年間にわたっておこなってきた定線センサスのデータが発表されました.全159サイトのうち,1か月の欠落もないデータが25か所あり,種別の個体数の経年と季節の変化,調査地の環境別の経年と季節の変化などが図示されています.カモ類でいうと,マガモ,オナガガモ,ホシハジロが減少しており,ハシビロガモとカワアイサが増加しています.夏鳥では,オオヨシキリが減少している傍ら,キビタキとコムクドリが増加しています.このような種ごとの増減がどんな要因で起きてきているのか,地域の環境の変化などと併せて考えていけるテーマがたくさん湧いてきそうです.購入をご希望の方は,下記までご連絡ください.
【加藤ななえ】

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日本野鳥の会神奈川支部
〒221-0052 横浜市神奈川区栄町2番8号横浜藤ビル2階
Tel: 045-453-3301 (月水金 12:00~16:00)
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4.◆生態図鑑◆ カンムリワシ
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○英名 Crested Serpent Eagle  学名:Spilornis cheela  
○分類 タカ目 タカ科

○羽色
 成鳥の背面は黒褐色,腹面は茶褐色から灰褐色に白い斑が無数にある.頭部は羽の重なり具合から黒色が目立ち,後頭には和名や英名の由来ともなっている冠羽がある.しかし緊張時などで立てない限りあまり目立たない.虹彩は黄色(まれに性や齢に関わらず暗褐色の個体がいる)で,目の周りの裸出した皮膚と足は黄色,嘴は青味のある灰色.風切羽と尾羽は太い黒帯が2本ある.幼鳥の背面は白色に暗褐色や黒色の帯が入り,遠目からは白黒のまだらに見える.腹面は白いためよく目立つ.目の後の黒い模様は,全く無い個体から複雑な模様まで個体差がある.虹彩は薄い青色から黄緑色.風切羽と尾羽には黒帯があるが,成鳥より細くて帯数が多い.

○生息環境
 成鳥は,まとまった森林地帯と河川やマングローブ林などの湿地が隣接した環境を好み,主に森林部で営巣し,湿地部で餌を捕らえる.開けた場所でも餌を捕らえ,水田や牧草地,サトウキビ畑なども利用している.まだ生息場所が定着していない若い個体は,小規模な二次林や社寺林,広い畑や水田地帯,海岸林なども利用する.

○繁殖システム
 一夫一妻で繁殖する.造巣のための枝運搬は1月後半から確認できるが,4月初旬の産卵までの間,日を置いて緩やかに行われる.その間交尾を何度も行う.抱卵や抱雛は主にメスが,餌運搬はオスが行う.6月下旬にはメスも巣から離れ餌を運び,7月中旬から8月にはヒナが巣立つ.巣立ち後,ヒナがいつ独立するのかは,分かっていない.

○抱卵・育雛期間・巣立ち率
 抱卵期間は推定で30~45日前後,孵化から巣付近を枝移りしだす期間は60~70日と幅がある.

◯増加傾向にある交通事故
 カンムリワシは年間平均して石垣島で9.5羽,西表島で5.3羽が衰弱や怪我または死亡により保護・収容されている.その要因の54%が交通事故となっている(2000年~2011年 カンムリワシ・リサーチまとめ).近年,道路整備や交通量の増加に伴い,側溝に落ち込んだり,轢かれたりする小動物も目立っており.これらを食物にするカンムリワシにも二次的な被害が及んでいる.カンムリワシ・リサーチでは,行政や動物病院などと連携し,これらの個体のリハビリや放鳥,野外復帰や復帰後の情報収集,さらに観察会やチラシ配布などで交通事故防止を呼びかけている.
【カンムリワシ・リサーチ代表 佐野清貴】

◆その他掲載記事
 ・全長,自然翼長,尾長,露出嘴峰長,ふ蹠長,体重
 ・鳴き声
 ・分布
 ・巣,卵
 ・食性と採食行動
 ・比較的警戒心が弱く,観察が容易
 ・石垣・西表以外での確認事例

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5.◆活動報告◆ モニ1000 ガンカモ類調査交流会開催!
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 毎年恒例のガンカモ類調査交流会を,今年は1月21日に滋賀県長浜市の琵琶湖水鳥・湿地センターで開催しました.今回はコハクチョウとオオヒシクイの国内移動をテーマに,日本海側の渡りルートにある新潟,石川,福井,そして地元の滋賀の生息地で調査をされている皆さんに発表をお願いして,情報交換を行いました.
 新潟市の佐潟水鳥湿地センターの野沢沙樹さんには,新潟湖沼ネットワークが瓢湖,福島潟,鳥屋野潟,佐潟で毎週行っている調査から,新潟平野全体の個体数の月別の推移を発表していただきました.内陸側の山地に近い瓢湖や福島潟から海岸に近い佐潟や鳥屋野潟にかけて,積雪が少なくなっていく連続写真と,積雪に従ってコハクチョウが海岸部へ移動するというお話しが分かりやすく,印象的でした.
 琵琶湖・水鳥湿地センターの植田潤さんのお話しでは,琵琶湖ではハクチョウは平年は300~600羽ほどなのですが,05/06の北陸の大雪の年には最大905羽が記録されていて,今年も寒波の年で数が多くなっているということでした.
【神山和夫】

◆その他掲載記事
 ・九頭竜川河口のオオヒシクイの減少はマコモの減少が原因?
 ・琵琶湖で増加しているオオバンとミコアイサ
 ・湖上タクシーで琵琶湖に乗り出し大発見のトモエガモ発信機個体

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6.◆図書紹介◆ 田んぼの生きものたち ツバメ  税込2625円
           神山和夫・佐藤信敏・渡辺仁 著/農文協
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 このたび,農文協から「田んぼの生きものたち ツバメ」を出版しましたので,紹介させていただきます.この本では,ツバメの一年を追いながら,彼らの生態を300枚以上の写真を使って解説しています.まず第一の特色は,ツバメの写真の美しさです.写真の多くは写真家の佐藤信敏さんによるもので,飛行しているツバメの翼の形態や,採餌,給餌,闘争,交尾などが見事に捉えられています.
 第二の特色は,研究者や市民団体によるツバメ調査に基づいた解説です.ここ数年に日本で発表された最新のツバメの繁殖生態の研究成果や,各地の市民調査で明らかになった分布パターンや集団ねぐら形成,標識調査による渡り経路,バードリサーチの初認調査などで解明されたツバメの生態を,一般の方にも分かりやすく解説しています.
 ツバメに関する疑問のほとんどにお答えできる内容になっていると思います.ツバメの大家さんや,ツバメ観察学習をする学校の先生(観察しなくても答えが解ってしまうので,児童は読まない方がいいかもしれません),そしてツバメを愛するすべての方に捧げる一冊です.
【神山和夫】

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7.◆論文紹介◆ 放射線量と鳥の個体数
           ~チェルノブイリからみた福島~
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 福島第一原子力発電所から約30~50km離れた地域で,原発事故から約4ヶ月後の2011年7月に,放射線量と鳥類の個体数についての調査が実施され,その関係を報告した論文が国内外の研究者によって発表されたので,その内容を紹介します.
 チェルノブイリ原発の事故後に,ウクライナとベラルーシで放射性物質の鳥類への影響を調べているフランスのメラー教授らの研究グループと,日本人研究者が共同で,福島県内の放射線量の高い地域で,鳥類の生息個体数を調査し,私たちもこの調査に参加しました.調査方法は,チェルノブイリで実施している手法と同様で,1地点5分間のポイントカウントです.5分間同じ場所にとどまって,姿を見た,もしくは声が聞こえた鳥の種類と数を記録します.この調査を地点と地点の間を100m以上離しながら繰り返していきます.
 調査は2011年7月11~15日に,主に夏鳥と留鳥を対象にして,福島第一原発から約30~50km離れた地域の300地点で鳥類の個体数を種ごとに記録しました.その結果,合計45種の鳥類が記録され,放射線量の高い地点ほど個体数が少ない傾向がみられました.この相関関係が,どのようなメカニズムで得られたのかについては現段階でははっきりしません.しかし,福島でも放射線量が鳥類の個体数に影響を与えている可能性があります.また,福島とチェルノブイリではノスリ,ヒバリ,イワツバメ,ツバメ,ハクセキレイ,ミソサザイ,オオヨシキリ,エナガ,ヒガラ,シジュウカラ,コガラ,カケス,ハシボソガラス,スズメという14種の鳥類が共通してみられました.これら14種の鳥だけを対象に2つの地域を比較してみると,放射線量と個体数との間の負の相関関係は,チェルノブイリより福島の方が強いことがわかりました.
 しかし,この結果は放射線量が鳥類の個体数に及ぼす直接的な影響がチェルノブイリよりも福島の方で強いことを示しているわけではありません.チェルノブイリでは事故から約20年後に調査が実施されているため,突然変異の蓄積した鳥が調査時には既に消失していて,チェルノブイリでは放射線量と個体数の相関関係が福島より弱くなっている可能性があります.また福島の方がチェルノブイリよりも鳥類の生息密度が高かったため,例えば放射線量が高く餌となる虫が少なくなった場所で,鳥類間の競争が激しくなり,個体数が少なくなった可能性なども考えられます.
 この論文では放射線が鳥類の個体数に影響している可能性があることを指摘しています.ただし,生物を取り巻く環境は複雑で,野外で得られた放射線量と鳥の個体数の関係の解釈は慎重に行われるべきです.同じ線量の地域に生息していても,放射線の影響は何を食べているか,何を巣材にしているかなどによって異なる可能性があります.また,福島原発の事故が鳥に与える影響は,放射線の直接的なもの以外にも,いろいろなメカニズムが働くことが考えられます.例えば,避難地区では人がいなくなったり,耕作地が使われなくなったりしていることで鳥類にとっての環境は変化しています.環境が変化したことの影響は,種によって異なるでしょう.今後は放射線量と環境の経年変化による影響を考慮して,各種の鳥類の個体数変化を経年的に追跡していくことが重要な課題になると思います.
【松井 晋・笠原里恵】

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Anders Pape Moller, Atsushi Hagiwara, Shin Matsui, Satoe Kasahara, Kencho Kawatsu, Isao Nishiumi, Hiroyuki Suzuki, Keisuke Ueda, Timothy A. Mousseau.
2012. Abundance of birds in Fukushima as judged from Chernobyl.
Environmental Pollutions 164: 36-39.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0269749112000255
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バードリサーチニュース Vol.9 No.2  2012年2月24日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ

〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
TEL & FAX 042-401-8661
発行者: 植田睦之       編集者: 高木憲太郎
E-mail:  URL: http://www.bird-research.jp/
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