バードリサーチ ニュース

2010年10月号 (Vol.7 No.10)

 
【 もくじ 】

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1.◆参加型調査◆ 外来鳥ウォッチへのご協力ありがとうございました!
2.◆活動報告◆ 池島で未確認飛行物体を確認
3.◆研究紹介◆ カワウだって好き嫌い? 餌選好性の研究紹介
4.◆生態図鑑◆ クロツグミ
5.◆イベント情報◆ シギ・チドリ類調査交流会を開催します!
6.◆図書紹介◆ ゆかいな聞き耳ずきん クロツグミの鳴き声の謎をとく
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【 概 要 】
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1.◆参加型調査◆ 外来鳥ウォッチへのご協力ありがとうございました!
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  今年から,はじめた外来鳥ウォッチですが,多くの情報をいただきました.ありがとうございました.特に情報の多かったコジュケイ,ガビチョウ,ソウシチョウについて,野鳥記録データベース「フィールドノート」のデータとあわせて分布図を描きました.以下にその概要をお知らせします.

○コジュケイ
 中部地方や瀬戸内海沿岸,南九州など,情報が抜けてしまっている地域もありますが,太平洋側に広く分布する様子が示されました.積雪の少ない太平洋側に分布する特性から考えると,今後,日本海側の積雪の減少とともに分布を拡大する可能性が考えられますが,反面,狩猟目的の放鳥がなくなったためか,近年,分布や個体数が減少している地域があることも指摘されており,今後,分布が縮小していく可能性も考えられます.継続して,調査を続けていくことで,分布がそのどちらに向かうのか,明らかにしたいと思います.

 これらの鳥以外にも,コブハクチョウ,インドクジャクについて情報収集を行なっています.この2種については,ホームページに結果を示していますのでご覧ください.外来鳥は年々分布を変化させていますので,今後も継続して調査を続けていきたいと思います.引き続きの調査へのご協力,よろしくお願いいたします.
【植田睦之】

◆その他掲載記事
 ・ガビチョウ
 ・ソウシチョウ

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2.◆活動報告◆ 池島で未確認飛行物体を確認
         ~ 2010年8月27日に出現した不思議エコー ~
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○レーダーが捉えた!
 現在,環境省から研究費をいただき,長崎半島沖合にある長崎市池島で風と波と鳥類の連続観測を続けています.船舶レーダーを使った鳥の観測から,鳥の渡りが多くなる時期や飛行高度,ほかの地域との渡り鳥の飛行パターンの違いなど,いくつかのことが見えてきているのですが,それだけでなく,毎日データをとっている連続観測ならではの珍しい事象も観測することができました.それは8月27日に観測された興味深いエコーです.
 そのエコーが現れたのは8月27日10時半頃.池島の数地点から沸きあがるように現れ,地上約250m,高いときは約700mまで達した後水平に広がり,上空の風に乗って海上へと流れていきました.この不思議エコーは,11時半過ぎに一度消滅しましたが,12時過ぎに再び湧き上がり,13時過ぎには再び見られなくなりました.また,このエコーに対して,上空を飛んでいた鳥が突っ込んでいく様子も記録されていました.

■動画(13.3MB)はこちら
http://www.bird-research.jp/appendix/insect-bird.gif

○この不思議エコーは何なのでしょうか?
 不思議エコーの動きは,この時の大気の動きを表しているようです.すなわち,地上の数地点から立ち上がるエコーは,猛禽類が上昇するときにも使う上昇気流,サーマル(熱泡)そっくりです.このサーマルは,午前中は島から海に向かってゆっくりと流されており,これは下層に陸風が吹いていたことを示しています.一方,午後は逆方向に流されており,海風の存在を示しています.また,このエコーが上空で水平に広がったということは,サーマルが上空の温度逆転層に達して浮力を失ったためと考えられます.
 今回観測された不思議エコーは,このような大気の動きが,大気の屈折率の変化で生じる「エンジェルエコー」(非降水エコー)として映った可能性があります.しかし,それにしてはエコーが強すぎますし,鳥が集まってきていたことから,単なる大気ではなく,鳥の食物となる「何か」が含まれていたのだと考えられます.したがって,飛翔能力の弱い虫がサーマルによって運ばれているのがエコーとして映ったものである可能性が高いと考えています.
 2009年11月から連続して観測していますが,今回のような特異なエコーが観測されたのは8月27日のみです.問題は,なぜこの日に限って虫が大量発生したかです.アリは,春から秋にかけて1年に一回,結婚飛行しますので,8月27日がちょうどその日にあたっていた可能性があります.
 九州では8月末にこういう飛行をするアリあるいはその他の虫がいるのでしょうか? ご存知の方は情報を植田( mj-ueta@bird-research.jp )までお願いします.
【植田睦之・三田長久(熊大)・藤吉康志(北大・低温研)】

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3.◆研究紹介◆ カワウだって好き嫌い? 餌選好性の研究紹介
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 漁協さんからは,カワウはアユばかりを狙うとよく言われますが,実際はどうでしょうか?鳥学会大会の自由集会の発表から,カワウに餌魚種の選り好みがあるのかどうか調べた二つの研究の一部を紹介したいと思います.

○カワウは逃げ足の遅い魚を食べている
 野外でカワウの採食を観察することはなかなかできません.そこで群馬県水産試験場の田中英樹さん達は,保護されたカワウ5羽を用いて飼育下での実験をおこないました.コンクリート製屋内池(6×8×1.8m)と,カワウの餌となる魚として全長14~15cmのアユ,ヤマメ,コイ,ウグイの4種を準備しました.
 カワウ1羽を,同数のアユ,ヤマメ,コイの3種がいる池に放したところ,コイは極度に怯えて池の隅に固まってしまい食べられ易くなったそうです.個体差があるようでコイを食べないカワウもいましたが,ヤマメとコイを好むタイプに分かれ,アユを捕食するカワウは少なかったそうです.
 次に,アユとウグイの2種を一緒に池に入れたところ,ウグイの方がアユよりも多く食べられることが分かりました.これらの魚の遊泳能力(突進速度)を比べると,アユ>ヤマメ>ウグイ>コイとなるそうです.以上の結果からカワウは逃げ足の遅い魚から順に食べているのではないかと推測されました.

○カワウの食性からみえてきた魚の保全
 異なる手法で調査されたこの二つの研究は共通の結果に行きついたように見えます.個体によって好む魚種はあるようですが,カワウという種は餌としての魚種に対するこだわりは特にないと考えられます.つまり, カワウは環境中の優占種や捕まえ易い魚種を多く食べているようです.
 川にアユが多い所では,アユが多く食べられることになります.しかし,水中の魚が多様だと,特定の魚種に対する採食機会が減少し,人にとって有用な魚種も守られることになります.
 紹介した2つの研究は,平成19年度から3年間おこなわれた農林水産技術会議の研究プロジェクト「カワウによる漁業被害防除技術の開発」によるものです.
【加藤ななえ】

◆その他掲載記事
 ・カワウはたくさんいる魚を食べている

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4.◆生態図鑑◆ クロツグミ
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○英名:Grey Thrush   学名:Turdus cardis
○分類:スズメ目 ツグミ科
 
◯羽色
 オスは上面と顔から胸にかけて黒.背面は灰色味を呈し,頭部の黒との差が明瞭に見えることもあるが,暗い林内ではわかりにくい.腹部は白く,黒の三角斑が散在.目の周囲と嘴は黄色.メスは上面から顔にかけて黄土色で,のどから腹部にかけては白く,黒褐色と橙色の斑紋がある.若いオスにはメスに似た色彩の個体もいる.ごくまれに上面が一様に暗灰色のメスがおり,若いオスに酷似する.

○生息環境
 広葉樹林でも針葉樹の植林地でも繁殖し,疎林的な環境にもいる.ただし,同じように見える林でも,高密度にいるところと,まったくいないところがある.

○巣
 メスは低木層がよく茂った林内に,4月下旬から造巣を開始する.オスのさえずり域はそれに伴って林縁から森林内に移動する.アケビ,スイカズラ,ノイバラなど,蔓性・半蔓性の植物に覆われた枯れ枝のつけ根などに好んで営巣し,地上からの高さは平均1.7mだが,地上5~10mの針葉樹の樹冠内に営巣することもある.巣は枯れ草の茎や根で椀型に作られ,土が混ぜられる.外側には蘚類が貼られることが多いが,ないものもある.外径は約140mm,深さは約50mm.

○食性
 主に地上で昆虫やムカデ,ミミズなどを食べる.木の頂で飛翔性の昆虫を捕食することもある.キヅタ,ヒョウタンボク,サクラ類などの実も食べる.ヒナにはミミズを多く運ぶ.

○さえずりのレパートリーと獲得メス数
 クロツグミのさえずりは,前半の「ホィッスル部」および後半の「トリル部」と呼ばれる2つの部分からなる.ホィッスルやトリルの所有種類数は年齢と関係せず,ホィッスルとトリルの所有数に相関はみられない.一夫二妻になったオスが一夫一妻のオスよりも多種のホィッスルをもつという傾向はなかったが,一夫二妻のオスは多種のトリルをもつ傾向があった.

○夜明け前の遠出
 オスは夜明け前に巣から300m~1km離れた地点でさえずることがある.遠出をするエリアは他の個体と重複するが,至近距離でさえずり合うことはない.また,そのさえずりの最中に,鳴かない他のオスが1~2mまで接近することがあるが,遠出してさえずっているオスは接近個体を追い払わないことが多い.さらに,そこで録音再生実験を行っても,ほとんど反応(なわばり防衛行動)しない.このことから,遠出のさえずりはなわばり防衛ではなく,もっぱら第二メスを誘引するための行動と考えられる.本種ではメス同士がきわめて排他的なので,オスが一夫多妻を確立するには遠出戦略が有利と考えられる.
【石塚 徹 NPO法人生物多様性研究所あーすわーむ】

◆その他掲載記事
 ・全長,翼長,露出嘴峰長,尾長,ふ蹠長,体重
 ・鳴き声
 ・分布
 ・繁殖システム
 ・卵,抱卵・育雛期間,巣立ち率
 ・独身オスと既婚オスのさえずり方の違い
 ・小声のさえずり
 ・繁殖個体群の消滅例

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5.◆イベント情報◆ シギ・チドリ類調査交流会を開催します!
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 モニタリングサイト1000 シギ・チドリ類調査では,毎年,各地でシギ・チドリ類調査員の交流会を開催しており,今年は北海道根室市で開催いたします.
 今回の交流会では,北海道のシギ・チドリ類や湿地に関する話題を中心に発表をしていただきます.また意見交換などを通して調査員のネットワークを広げることも目的にしています.また,翌7日には,エクスカーションを春国岱・野付半島などで行う予定です.調査員以外の方でも自由に参加できます.ぜひご参加ください.
 交流会の事前申し込みは不要ですが,懇親会・エクスカーションは人数把握のため守屋( moriya@bird-research.jp )宛てに事前のご連絡をお願いしています.詳しくは以下のサイトをご覧ください.
【守屋年史】

■シギ・チドリ類調査交流会in北海道の案内ページ
http://www.bird-research.jp/1_event/shigichi2010_11.html

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●シギ・チドリ類調査交流会in北海道

【開催日】2010年11月6日(土)13:00~17:00 (12:30開場)
【会 場】根室市春国岱原生野鳥公園ネイチャーセンター2階
     (〒086-0074 北海道根室市東梅103番地)
【参加費】無料 (懇親会は別途)
【内 容】
 1.モニタリングサイト1000調査について
 2. 北海道のシギ・チドリ類 
 3. 国際連携・沿岸域の保全 
 4.湿地の保全にかんする意見交換
【エクスカーション】 <事前申し込みが必要です!>
 翌日11月7日8:30~Aコース12:00,Bコース15:00)
 春国岱や野付半島などの調査地を見学します.
 午前中までで空港に向かうAコース&野付半島まで巡るBコース.
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6.◆図書紹介◆ ゆかいな聞き耳ずきん クロツグミの鳴き声の謎をとく
         石塚徹 著 岩本久則 絵/福音館書店 定価700円(税込)
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 「たくさんのふしぎ」は小学校中高学年を対象とした,自然科学や生活,歴史などさまざまなテーマを,常識やぶりの新鮮な切り口で捉え,じっくり掘り下げて紹介する月刊誌です.
 ユーモアにあふれた挿絵に,惹きこまれるようにページをめくっていくと,金沢の海辺の森にいざなわれます.鳥の声を聞き分けることができる魔法のアイテム「聞き耳ずきん」を手に入れた主人公が,クロツグミの声と繁殖の謎を解いていく冒険の世界.すごいな,と思ったのは,読み終えてみた時に,研究の方法とそこから得られた成果がとても良く頭に入ってきていたことです.大人でも満足できる内容を子供向けの優しい言葉遣いと短い文章の中に盛り込むのは簡単なことではありません.
 鳥を研究するのって,面白い!と読んだ子どもたちはきっとそう感じると思います.鳥の調査研究の面白さを伝えて行く,バードリサーチが目標としているところとも重なります.子供さんだけでなく大人の皆さんにも薦めたい一冊です.
【高木憲太郎】


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バードリサーチニュース Vol.7 No.10  2010年10月19日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ

〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
TEL & FAX 042-401-8661
発行者: 植田睦之       編集者: 高木憲太郎
E-mail:  URL: http://www.bird-research.jp/
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