バードリサーチ ニュース

2009年6月号 (Vol.6 No.6)

 
【 もくじ 】

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1.◆参加型調査◆ シギ・チドリ類食性調査 -中間まとめ-
2.◆参加型調査◆ モニタリングサイト1000 調査協力者募集!
3.◆生態図鑑◆ オナガ
4.◆論文紹介◆ 鳥の羽色の退色補正方法 ~日焼けで脱色するツバメ~
5.◆研究誌より◆ 脅威は水面下に! 小鳥食うブラックバス
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【 概 要 】
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1.◆参加型調査◆ シギ・チドリ類食性調査 -中間まとめ-
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 シギ・チドリの食性調査では,現在までに16名の方から50例の報告をいただきました.ありがとうございました.加えて,スロー録画モード付きのビデオを使って採食の瞬間を撮影するという調査を行なったところ,92例のデータを得ることができました.両方合わせてシギ・チドリ33種142例のデータを得ることができました.
 33種というと国内で観察されるシギ・チドリの約半分です.ヘラシギ,アメリカウズラシギなど希少種や識別の難しい種が意外と報告にあり,これは熱心に観察されて写真などに撮られる機会が多いためと考えられます.
 問題点も見えてきました.シギ・チドリの採食行動が素早く,観察やビデオ撮影だけでは餌動物を見分けられないのです.干潟や湿地にどんな生物がいるのか,ある程度把握していると見分けやすくなります.そこで,干潟にどんな生物がいるのか干潟調査の企画を考えて,『みにクル』でも参加者を募ろうと思います.
 今後も食性に関する調査は続けていきます.ハマシギがゴカイを食べているといった当たり前とも思える記録や,何を食べているか分からないといった記録も大切なデータです.近くの干潟や湿地でシギ・チドリが何をどんな環境で食べているのか,ぜひ下記のページから報告して下さい.
【守屋年史】

■シギ・チドリ類食性調査
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/moni1000/shigitidori/shigiti_food.html

◆その他掲載記事
 ・シギ・チドリの餌動物

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2.◆参加型調査◆ モニタリングサイト1000 調査協力者募集!
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 バードリサーチはガンカモ,シギチドリに続き,モニタリングサイト1000の陸生鳥類調査の事務局も務めることになりました.陸生鳥類調査では鳥の調査とともに,一部の調査地(コアサイト)では植物や徘徊性甲虫の調査も行なっています.自然環境研究センターが植物や甲虫の調査および全体調整を行ない,日本野鳥の会とバードリサーチとで,鳥の調査や解析を行ないます.
 この陸生鳥類調査は,ガンカモやシギチドリと比べ大所帯の調査で,調査地は全国に400地点以上もあります.この調査地点を,100年間モニタリングしていく予定です.これを続けていくためには,現在調査をしている人以外に,将来調査を担っていただく協力者が必要です.
 そこで,ガンカモやシギチドリの調査も含めたモニタリング調査にご興味があり,ご協力いただける方を募集します.ご連絡いただいた方はバードリサーチモニタリングチームに登録させていただきます.特典は,モニタリングサイト1000関係で発行している「陸生鳥類調査情報」や「カモシギ通信」,そのほかの鳥類のモニタリングに関する情報を受け取れることです.そして登録された方の使命は,近隣の場所で調査者が必要になった時に,声をかけさせていただきますので,その際は調査することを「前向きに」検討していただくことです.
 現在,すでに陸生鳥類,ガンカモ,シギ・チドリのいずれかのモニタリングサイト1000の調査に参加いただいている方も,登録いただければ,「陸生鳥類調査情報」と「カモシギ通信」の両方をPDFファイルでお届けいたします.ぜひ,モニタリングチームにご登録ください.
【植田睦之】

登録は,以下のホームページから
http://www.bird-research.jp/1_event/moni.html

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3.◆生態図鑑◆ オナガ
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○英名:Azure-winged Magpie 学名:Cyanopica cyana
○分類:スズメ目 カラス科
 
○羽色
 雌雄同色でオスはやや大型である.頭部は黒色の帽子状.背は灰色.喉,胸,腹は白色あるいは灰白色.翼と尾は淡青色から青灰色.風切内弁は黒色で外弁は淡青色.初列風切外弁の先半分は白色.中央尾羽先端に長さ約2cmの白斑がある.嘴と脚は黒色.虹彩は暗褐色.
 幼鳥の中央尾羽は極端に短く,全ての尾羽に数mmの明瞭な白縁がある.小翼羽と大雨覆の各羽の先端にも白縁がある.秋の幼羽の換羽の程度は孵化時期と関係し,尾羽は中央から0~4対(通常1~3対)を換羽し,最も遅い8月後半に孵化した個体は尾羽と小翼羽の全てを換羽しない.従って残った幼羽の白縁によって成鳥と区別できる.初列雨覆も換羽せず成鳥より灰色味が強い.

○生息環境
 林が連続する森林地帯には生息せず,林や低木林が散在する開けた環境や川辺の林に生息し,高原の別荘や農耕地,山地の川沿いの集落など人為的に切り開いた環境にも生息する.また,住宅地や市街地の緑地や公園などでも生息する.

○巣
 人家の庭や周囲の林の縁に巣を造ることが多い.公園や街路樹にも営巣する.巣は常緑広葉樹,落葉広葉樹,針葉樹など多様な樹種の高さ1~13mの枝の又や若枝が密生した場所に造る.巣の大きさは外径30×25cm,厚さ13cm,内径(産座)11cm深さ6cmである.造巣は雌雄で行い,巣の外層には木の枝を用い,底中央に土をその周辺に蘚苔類を敷きつめる.その上に蘚苔類,樹皮,草根,枯葉等を腕状に積み重ね,産座にシュロ,樹皮,細根などを敷く.
 巣は単独に近いものもあるが,互いに集まって営巣する傾向があり,ルースコロニアルである.群内での巣間距離は3~150mあり,5~35mのものが多いが,巣間距離で繁殖の成功に大きな違いはなかった.ツミの巣の周りに集団営巣することもある.

○抱卵,育雛期間
 繁殖は生まれた年の翌年から可能である.繁殖オスの21%,繁殖メスの18%が前年生まれの個体である.繁殖は4月末から5月上旬より始まり9月中旬に最後のヒナが巣立つ.年1回が多いが,14%のつがいは2回繁殖を行った.メスが抱卵と抱雛を行い,抱卵中はオスがメスに給餌する.ヒナへの給餌は雌雄とも行う.
 産卵は毎日,抱卵期間は15日,孵化後17~18日で巣立ち,約1ヶ月半ほど親の世話を受ける.産卵は5月中旬~8月中旬で5月下旬から6月上旬が産卵のピークである.孵化後1~2日の一巣雛数は平均4.8羽,孵化後15日の一巣雛数は2~7羽で平均4.2羽であった.また,時期が遅くなると一腹卵数も一巣雛数も低下する.

○ヘルパー
 オナガではつがい以外に繁殖の手伝いを行う個体(ヘルパー)がいる.ヘルパーは巣材運び,造巣,メスへの給餌,巣内雛や巣立雛への給餌,ヒナの糞の運び出し,捕食者への攻撃を行う.
 オナガでは独身オスがヘルパーとなる場合と繁殖オスがヘルパーになる場合がある.独身オスのヘルパーは出生群に留まりつがいになれなかった前年生まれの個体で,両親や兄弟の繁殖を手伝い,両親や兄弟がいない場合は群内の他のつがいを手伝うが,つがい相手が得られればヘルパーをやめる.まれに当年生まれの個体がヘルパーとなる場合がある.独身オスの多くは繁殖期後期に巣立った個体が多い.
 繁殖オスのヘルパーは1歳~6歳以上と年齢に関係なく,また,繁殖の成功や失敗に関係なく自分の繁殖を終えた後が多く,自群にまだ育雛しているつがいがあると手伝う.父や息子の繁殖を手伝うことが多い.また,繁殖中のオス,成鳥の独身個体,つがいのメスも他の個体の繁殖を手伝うことがある.
【原田俊司 いであ株式会社 主任研究員 】

◆その他掲載記事
 ・全長,翼長,尾長,嘴峰長,ふ蹠長,体重
 ・鳴き声
 ・分布
 ・群れ,繁殖システム
 ・卵
 ・繁殖成功率
 ・食性と採食行動

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4.◆論文紹介◆ 鳥の羽色の退色補正方法 ~日焼けで脱色するツバメ~
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 近ごろは茶髪も普通になりましたが,私が高校生だった20数年前は不良スタイルの典型でした.特にサッカー部の男子の髪の毛が茶色がかっていて,まじめな学生だった私はちょっとビビッていました.日に当たりすぎると紫外線のせいで髪のメラニン色素が壊されるので,薬剤で脱色するのと同じ効果があります.だとすれば,太陽の下を飛び回っている野鳥も,だんだんと羽色があせてくるのかもしれません.
 長谷川克さんたちはツバメの喉の赤い羽色が退色しているかどうかを調べました.この赤い色もメラニン由来なのですが,それを色相,彩度,明度という指標を使って測定し,時間と退色の関係を比較しました.
 すると,月日が経っても彩度の変化は小さく,色相と明度は月日とともにあせていくことが分かりました.また,時間と退色に相関があったことから,測定日の違うオスどうしを退色の影響を補正して比較することができるわけです.羽色は個体の健康状態や繁殖能力を示すことがありますが,この結果をもとに,ツバメの羽色と繁殖成功率との関係など,今後どんな成果が出てくるのか楽しみですね.
【神山和夫】

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Hasegawa, M., Arai, E., Watanabe, M. & Nakamura, M. 2008.
Methods for correcting plumage color fading in the Barn Swallow.
Ornithological Science 7:117-122.
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5.◆研究誌より◆ 脅威は水面下に! 小鳥食うブラックバス
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 以前からオオクチバス(ブラックバス)が水鳥に影響を与えることが言われてきました.伊豆沼ではオオクチバスが増加した後に小型の魚食性の鳥が減少し,同時に小型魚類が減少していることから,オオクチバス増加→小型魚類の減少→小型の魚食性の鳥が減少といった間接的な影響が知られています.しかし,このような間接的な影響だけでなく,オオクチバスが水鳥を直接捕食するという影響もあるのではないかと考えられてきました.湖面を泳いでいる水鳥のヒナなどは,格好の獲物に思えます.しかし,こうした直接的な影響についての証拠はほとんどありませんでした.
 嶋田さんと藤本さんは伊豆沼で捕獲したオオクチバスの胃から小鳥が出てきたのを見つけました.半消化状態の小鳥でしたが,色,くちばしの形態などから,オオジュリンであると思われました.
 嶋田さんたちは,オオクチバスが,機会が少なそうな小鳥すら捕食しているのですから,水鳥のヒナもかなり捕食されていて,オオクチバスによる水鳥への直接的な影響も大きいのではないかと考えています.
【植田睦之】

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嶋田哲郎・藤本泰文. 2009. オオクチバスによる小鳥の捕食.
Bird Research 5: S7-S9.
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バードリサーチニュース Vol.6 No.6   2009年6月24日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ
〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
発行者: 植田睦之       編集者: 高木憲太郎
E-mail:  URL: http://www.bird-research.jp
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