バードリサーチ ニュース

2009年5月号 (Vol.6 No.5)

 
【 もくじ 】

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1.◆参加型調査◆ キビタキ調査速報 初認前線&標高と初認日の関係
2.◆参加型調査◆ スタッフと一緒に調査 「みにクル」始動!
3.◆生態図鑑◆ アカゲラ
4.◆レポート◆ カワウのねぐら事情 ~千葉県の場合~
5.◆レポート◆ 海を越えるタカたち 飛行状況を決めるものは?
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【 概 要 】
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1.◆参加型調査◆ キビタキ調査速報 初認前線&標高と初認日の関係
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 キビタキ調査へのご参加ありがとうございます.5月20日までに134名の方にご協力いただき,全部で223件の情報が寄せられ,そのうち繁殖地の初認情報が58件ありました.集まった情報のうち,最も早いものは熊本の4月9日でした.その後,4月中旬には近畿まで,4月末までには東北まで渡来し5月に入ると北海道にもやってきました.キビタキが徐々に北上していく様子をうまく捉えることができています.

■キビタキ調査結果速報のページ
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kibitaki/09.html

 3月号で調査への参加を呼びかけた時に,標高が高いところは渡来が遅いのではないか?という仮説をお話しました.それを検証するため地方ごとに便宜的に300mで標高を分けて初認日を比較してみました.すると,いくつかの地域で標高300以上の地点の方がそれ以下の地点に比べて遅い傾向がみられました.しかし,標高が高いところのサンプル数が少なく,観察頻度も低地に比べて少ないことが考えられるので,この結果だけでは,はっきりしたことが言えません.来年は標高の高い繁殖地の情報を集める工夫をしてみたいと思っています.

○調査にご協力ください!
 この調査では,キビタキのいた地表からの高さの季節変化も調査しています.初認後もキビタキを観察した時は下記Webサイトの黄色のボタンから情報をお送りください.
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kibitaki/

【高木憲太郎】

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2.◆参加型調査◆ スタッフと一緒に調査 「みにクル」始動!
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 6月頃から私たちスタッフが行っている調査を見に来ませんかという参加企画「みにクル」を始めます.鳥の調査に興味はあっても,いきなり一人で始めるのは難しいものです.そこで,実際,鳥の調査とはどんなことをしているのか?野外で体験していただこうと考えたわけです.内容は調査によっていろいろですが,見学してもらったり,簡単な補助をしてもらったりと気軽な感じにしようと思っています.ですから初心者や未経験者の方,歓迎です!
 場所や時間,募集人数をホームページ上でお知らせしますので,興味のある方は担当者にメールしてください.また,企画にあわせて狭山丘陵などでスキルアップのための定期的な調査も開始する予定ですので,朝の散歩がてら,ぜひ現地へ来てみて下さい.
【守屋年史】

■「みにクル」のページ
http://www.bird-research.jp/1_minikuru/

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3.◆生態図鑑◆ アカゲラ
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○英名:Great Spotted Woodpecker 学名:Dendrocopos major
○分類:キツツキ目 キツツキ科
 
○鳴き声
 通常はキョッと一声で鳴く.敵対する同種他個体や,営巣木へ接近する捕食者や人に対しては,連続的に平常より強く鳴き続けるほか,ギョギョギョギョギョという声も発する.つがい相手に対して,交尾のときや抱卵,抱雛を交代するときに静かにケレッケレッ という声で鳴き交わす.
 さえずりはないが,嘴で音の響きやすい樹木の枯死部などを連続的にたたいて,コロロロロ…等の音を出すドラミングをする.ドラミングは,なわばり宣言,つがい相手へのディスプレイ,同種他個体への敵対的行動などの際に用いられるほか,ヒナの巣立ちを促す時にも用いられる.巣内雛は孵化時から巣立ち直前まで日中はほぼひっきりなしに鳴いている.

○分布
 ユーラシア大陸の亜寒帯から温帯まで広く分布する.ヨーロッパでは,イギリスを含めてほぼ全域に分布し,東は韓国,中国,カムチャツカ,サハリン,日本まで分布する.また,アフリカ北部,カナリア諸島にも分布する.分布南限はインド,ベトナム.
 日本では,北海道と本州に分布し,四国にも少数生息する.本州中部以北で生息数が多く,低地の林でも普通に見られる.本州および四国では亜種アカゲラD. m. hondoensis,北海道では亜種エゾアカゲラ D. m. japonicus が繁殖するが,両亜種の識別は難しい.

○繁殖システム
 一夫一妻で年1回繁殖する.雌雄とも繁殖に参加するが,オスの方がメスよりも造巣,抱卵,抱雛などの繁殖努力量が多い.札幌の市街地において,一妻二夫の報告が1例ある.雌雄とも1歳から繁殖可能.成鳥は一度営巣した場所に定住する傾向が強く,つがい関係は死別しなければ経年維持される場合が多いが,まれに離婚もある.


○卵
 一腹卵数は5.7卵 (3-8)で,1日1卵ずつ産む.卵は卵型で長径約27mm,短径約20mm,重量約5g.卵色は白で,表面は滑らかでつやがある.

○ねぐら
 繁殖期前半には特にオスが卵やヒナと一緒に巣穴でねぐらをとるが,その他は古巣で1羽でねぐらをとることが多い.ねぐら穴の壁面や天井には,大きな穴や割れ目があることもある.ねぐら用の樹洞を新たに掘る場合には,巣穴と比較して掘り方が雑で壁面の凹凸が多く,入り口が大きく横穴はない場合が多い.ねぐらを掘る樹木は,10cm程度の太さでもよく,材は外縁部まで腐朽していても利用する.

○生物多様性に貢献する樹洞提供者
 アカゲラは,キツツキ類の中では分布域が広く,生息密度も高い種である.北海道やヨーロッパでは,他のキツツキ類がほとんど生息しない都市や農耕地の分断化された林にも普通に生息する.そうした森林にも,繁殖やねぐらに樹洞を必要とする哺乳類や鳥類(モモンガ,コウモリ類,カラ類,ムクドリ類など)が多数いることから,アカゲラは他種への重要な樹洞提供者になっていると考えられる.
 アカゲラの古巣の2次利用率は年数が経つにしたがって下がるため,巣穴を持続的に供給するアカゲラ個体群の安定的維持は,森林生態系の生物多様性の保全にとっても大きな意義を持つと考えられる.
【森さやか 東京大学大学院生物多様性科学研究室 農学特定研究員 】

◆その他掲載記事
 ・全長,自然翼長,尾長,鼻孔後端嘴峰長,ふ蹠長,体重
 ・羽色
 ・生息環境
 ・巣
 ・抱卵,育雛期間,巣立ち率
 ・渡り
 ・食性と採食行動
 ・チョウセンゴヨウの結実量と冬の気候の影響

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4.◆レポート◆ カワウのねぐら事情 ~千葉県の場合~
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 関東では,数万羽がいたと伝わる千葉県の蘇我にあった大巌寺のコロニーが1971年に消滅した後,上野の不忍池のコロニーだけになっていました.しかし,1980年代に入ると,このコロニーからカワウの復活が始まりました.そして,1996年12月に浜離宮庭園で行われた第六台場への移住作戦をきっかけに,関東一円へカワウの分布が広がりました.現在では,80か所のねぐらが見つかっています.ここでは,カワウの分布拡大のようすと,最近のねぐらの特徴と,ねぐらでの被害対策の事例を千葉県でおこなってきた調査からご紹介します.

○千葉県内の個体数と分布の広がり
 浜離宮庭園の追い出し前に千葉県内で確認されていたねぐらは,千葉市の花見川河川敷と市川市の行徳鳥獣保護区内の2か所で,それぞれ100~200羽ほどの規模でした.ところが第六台場への移住作戦を契機に個体数が急激に増え,1998年12月にはこの2か所で2579羽が確認されました.5年後の2003年12月には,ねぐらは11か所,個体数は4041羽となり,東京湾沿岸南部と県北部の溜池や湖沼に分布が広がってきました.2008年12月の千葉県内のカワウのねぐらの数はさらに増えて,分布も北東部や太平洋沿岸に広がっています.
 しかし,1999年以降の個体数はおよそ4000羽から8000羽で推移しています.関東で最も規模の大きなねぐらであった行徳鳥獣保護区で個体数が減少の傾向にある一方,100羽未満の小規模なねぐらが多くなっており,ねぐらの数は,現在も増加の一途をたどっています.

 個体数が頭打ちになってきている関東では,羽数をコントロールすることよりも,増え続けるカワウのねぐら場所の管理をどうするかが,これからの課題になってくると思います.被害を軽減させながら,共生を目指すには,カワウを受け入れられる場所の保全と,新しく作られるねぐらの排除との両方を計画的に進めることが求められています.
【加藤ななえ】

◆その他掲載記事
 ・ねぐらの追い出し 明と暗

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5.◆レポート◆ 海を越えるタカたち 飛行状況を決めるものは?
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 ぼくは,やや高所恐怖症です.何かつかまるところがあれば良いのですが,崖の端っこでの観察は,必要がなければ遠慮したいところです.渡り鳥にとっての海越えも,できれば遠慮したいことなのではないかと思います.そのためタカや日中渡る小鳥は海を越える距離をできるだけ短くできるように,海に張り出した岬の先端から海に飛び立ちます.この鳥の海越えに関するおもしろい観察を先日の出張ですることができたのでお話したいと思います.

○慎重なノスリ 渡るときと引き返すとき
 行ってきたのは青森津軽半島の龍飛崎で行なわれた「龍飛崎タカ渡りキャンプ2009」.5月3~5日の日程で開催された全国でタカの渡りを観察している人たちがあつまる集会です.交通の便の悪い岬での開催でしたが,遠くは兵庫からの参加者もいました.
 せっかく参加したので,タカの飛行状況についての情報もとろうとレーダーを持ち込んで調査してみました.数日データをとっただけなので,偶然なのかもしれませんが,ノスリが海を渡るときと,途中で渡りをやめて戻ってくる時とで,飛翔行動に違いがあることが見えてきました.引き返してくるときは,飛翔高度が海に出た後下がっていたのです。
 ぼくがBirderで連載している「野鳥の不思議解明最前線」の5月号でも紹介しましたが,短距離の渡りをするヨーロッパのノスリは長距離の渡りをするハチクマやミサゴよりも,できるだけ海を横切らないように慎重に渡ることが知られています.今回,龍飛崎でも,一度,岬を飛び立って北海道へと向かったにも関わらず,引き返してくるなど,日本のノスリも慎重に渡っているようでした.
【植田睦之】

◆その他掲載記事
 ・レーダーで捉えた飛翔高度の低下

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バードリサーチニュース Vol.6 No.5   2009年5月25日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ
〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
発行者: 植田睦之       編集者: 高木憲太郎
E-mail:  URL: http://www.bird-research.jp
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