GPS-TXによって明らかとなった越冬期のオオハクチョウ,カモ類の環境選択

Bird Research 14: A1-A12


嶋田哲郎・植田睦之・高橋佑亮・内田 聖・時田賢一・杉野目 斉・三上かつら・矢澤正人

 GPS-TXは発信機内のGPSにより得た位置情報を無線で受信機に送信し,受信機で記録を残すシステムである.位置精度の誤差は6m,測定範囲は平地など開けた環境では受信機の位置を中心に半径10km以上の範囲をカバーするため,開けた環境で活動するガンカモ類を詳細に追跡するときに有効である.またGPS-TXではリアルタイムに位置情報を取得することができるため,位置情報をえられた時点の環境をすみやかに確認できる利点もある.こうした特性を生かし,2015/16年と2017/18年の越冬期における伊豆沼・内沼周辺のオオハクチョウCygnus cygnus,オナガガモAnas acuta,マガモ A. platyrhynchos の環境選択をGPS-TXによって明らかにした.オオハクチョウは昼行性でハス群落の分布する岸よりの水面や給餌場所に滞在したほか,沼周辺の農地でも活動した.オナガガモは昼行性,夜行性いずれの特徴もみられ,2015/16年では,給餌場所を中心に分布しながらも,沼の北部から東部の農地へ夜間移動した例もあった.夜間に移動した農地までの距離は伊豆沼から平均2.5kmであった.2017/18年では,給餌場所を中心に分布し,昼間は餌付けがなされる駐車場付近に多く,夜間は給餌場所の奥まったヨシ群落周辺に分布した.マガモは夜行性で,オスメスとも伊豆沼西部に滞在し,夜間沼北部の農地へ移動した.夜間に移動した農地までの距離は伊豆沼から平均4.5kmであった.農地における土地利用をみると,オオハクチョウとオナガガモは乾田を,マガモは湛水田を選択した.GPS-TXはガンカモ類の環境選択を明らかにするときに有効な手法であり,さらに多くの種の追跡を行うことでそれらの越冬生態を明らかにすることができると考えられる.

キーワード: 伊豆沼・内沼,オオハクチョウ,オナガガモ,環境選択,GPS-TX,マガモ




渡良瀬遊水地における繁殖期のサンカノゴイ雄の減少

Bird Research 14: A13-A22


平野敏明

 サンカノゴイ Botaurus stellarisの雄の確認個体数の変動を明らかにするために,栃木県南部の渡良瀬遊水地で2008年から2017年の3月下旬から6月に,声に基づいた生息調査を実施した.遊水地の3つの調節池を通る全長15qのコースを設定し,おもに日の出前2時間から日の出後1時間の間に声の有無を記録した.サンカノゴイの雄は毎年1-5羽が記録されたが,年とともに有意に減少し,2013年以降は1-2羽のみとなった.第1調節池では最高4羽が記録され,記録回数を調査回数で除した生息確認率は他より高かった.雄の確認地点の滞水湿地の面積は,多くが2ha以下と狭く,水深は20p以下と浅かった.遊水地は1,500haがヨシやオギの高茎植物で覆われているが,水の多いヨシ原は著しく少ない.そのため,サンカノゴイの生息地としてはあまり適していないと考えられた.一方で,2016年と2017年に雄1羽が湿地再生事業で新たに掘削された池で記録された.湿地再生事業による新たな池の造成は,本種の新たな生息環境の創出に寄与すると考えられた.

キーワード: 発声雄,サンカノゴイ,生息環境,渡良瀬遊水地




八ヶ岳とその周辺におけるジョウビタキの繁殖状況と環境の特徴

Bird Research 14: A23-A31


山路公紀・林正敏

 日本では冬鳥であるジョウビタキ Phoenicurus auroreus が2010年6月に長野県富士見町で繁殖していることが発見された.その後8年間の経年調査の結果,八ヶ岳とその周辺では64件の繁殖が確認され,繁殖が継続・定着していた.繁殖に利用された環境には,いくつかの特徴があり,林地よりも別荘・リゾートが,非定住家屋よりも定住家屋がより多く利用されていた.営巣場所は,換気扇用フードなど,すべてが人工物であり,巣の地上高は2m前後が多かった.住宅地であっても繁殖場所は林縁部に近かった.これらから,ジョウビタキは林に依存しながらも人の活動と密接な関係を保つ場所で繁殖していると考えられる.

キーワード: ジョウビタキ,定着,繁殖環境,定住,人の活動





参加型調査“ベランダバードウォッチ”から明らかになった関東地方の住宅地の鳥類相とその時間変動

Bird Research 14: A33-


三上かつら・平野敏明・植田睦之

 都市環境の鳥類相は,時間の経過とともに変化する.21世紀初頭の住宅地環境における鳥類群集の特徴を記述するため,特定非営利活動法人バードリサーチが全国的に行なっている参加型調査“ベランダバードウォッチ”のデータを解析した.住宅地の鳥類について,1)記録地点数の多い種は何か,2)記録率の高い種は何か,3)季節によりどのような違いがあるか,4)種数の季節変動・年変動はどのくらいあるか,5)住宅地で記録された外来種,を明らかにした.その結果,繁殖期,越冬期を通じて,記録地点数,記録率ともに最も高かったのは,スズメとヒヨドリだった.よくみられる種の大部分は,人工構造物,街路樹,植栽に依存する,または利用可能な種だったが,そうではない種もあった.季節による種のランクが大きく変動したのはメジロ,カワラヒワ,ハクセキレイ,ウグイスなどで,その理由として,鳥の個体数の変化のほか,行動の季節変化や餌台による誘引,観察者による認識のしやすさが考えられた.長期調査によると,住宅地では,地点ごとに観察される種数は,繁殖期には安定しているが,越冬期は繁殖期よりばらつきが大きいことが示された.調査地点数や調査年数を増やしていくことで更なる発展が望める.そのためには,ベランダバードウォッチは参加型調査であるため,調査結果を定期的に還元するなどの工夫が必要と考えられた.

キーワード: 市民参加型調査,鳥類群集,住宅地,長期調査,都市鳥



四国西部におけるサンジャクの野生化

Bird Research 14: S1-S5


佐藤重穂・濱田哲暁・谷岡 仁

 四国地域の野外で観察されたサンジャク Urocissa erythrorhyncha の記録をとりまとめた.アジア大陸原産のカラス科に属するサンジャクは飼育個体の逸出に由来すると考えられる個体が四国西部で2000年から記録されており,2017年までに33件の記録が収集された.観察された環境は二次林が多く,針葉樹人工林と農耕地でも確認された.2015年と2016年には幼鳥と巣立ちビナが観察された.本種は四国西部に定着し,低地の広い範囲に生息していると考えられた.

キーワード: カラス科,外来種,四国,サンジャク





ドバトの羽色多型における地域差と,新聞記事に見られる経年的変化

Bird Research 14: S7-S11


室本光貴・三上 修

 ドバト Columba livia var. domestica は羽色に表現型多型が見られ,世界的に多くの研究が行なわれている.しかし日本では,ここ約40年ほど調査が行なわれていない.そこで本研究では,東京と大阪でドバトの羽色の割合を調査した.その結果,東京のドバトは灰二引と言われるタイプが少なかった.また東京については,過去の新聞記事の画像より,ドバトの羽色を年代ごとに解析すると,現代へ近づくにつれて灰二引が減っていることが明らかになった.

キーワード: 羽色多型,黒色化,侵略的外来種,都市鳥,ドバト





越冬地におけるオオハクチョウとオナガガモの飛行高度

Bird Research 14: S13-S18


植田睦之・嶋田哲郎・菊地デイル万次郎・三上かつら・内田 聖・高橋佑亮・ 時田賢一・杉野目斉・矢澤正人

 風力発電施設がガンカモ類に与える影響を評価するための基礎情報を得るため,2017年に宮城県伊豆沼で 5羽のオオハクチョウと 2羽のオナガガモの飛行をGPSで追跡した.オオハクチョウは1kmあたり20m程度上昇し,オナガガモはより速く上昇した.オオハクチョウは着陸態勢に入るまではこの上昇速度で上昇しながら飛んでおり,より高い場所を飛ぶために,徐々に飛行高度を上げていることが示唆された.また,この上昇速度は,力学モデルから推定された持続可能な上昇速度よりは明らかに低かった.なぜ早めに上昇していないのかを明らかにすることが今後の課題としてあげられる.

キーワード: オオハクチョウ,オナガガモ,上昇,飛行高度,力学モデル





ハチクマから得られた日本初記録の Icosta (Icosta) longipalpis (ハエ目:シラミバエ科)

Bird Research 14: S19-S21


酒井淳一・久野公啓・堀田昌伸

 長野県塩尻市にて生態調査のために捕獲したハチクマ Pernis ptilorhynchus orientalis雌成鳥1羽の体表からシラミバエ Icosta (Icosta) longipalpis の雌1頭を得た。このシラミバエは日本における初記録種であり、渡りを行う亜種ハチクマにおける初の寄生報告と考えられた.

キーワード: 外部寄生虫,ハチクマ,シラミバエ科,Icosta (Icosta) longipalpis





GPS 発信機で追跡したオオハクチョウの位置情報のデータ

Bird Research 14: R1-R4


植田睦之・嶋田哲郎・内田 聖・杉野目斉・高橋佑亮・時田賢一・三上かつら

 本論文は宮城県内沼でGPS 発信機を装着された1羽のオオハクチョウ Cygnus cygnus の越冬期から春の渡りにかけての移動経路のデータ公開の論文である.今回,GPS 発信機により得られたデータは,オオハクチョウの渡り経路,そして越冬地内での動きを見るうえでも貴重な情報であり,こうした情報は,現在問題になっている鳥インフルエンザの対策や風力発電施設建設でのハクチョウ類への影響の検討などにも有用な情報と考えられるため,ここに公開する.

キーワード: オオハクチョウ,渡り,越冬生態,GPS発信機