日本の鳥類のモニタリング 特集にあたって
Bird Research 10: F1-F2 植田睦之 バードリサーチ 生息環境の変化等により鳥類の生息状況が変化しており,長期的な鳥類のモニタリングが必要になっている.そこで10 巻の発行を記念して,モニタリングの特集を企画した.今回の特集を機に,日本の鳥類のモニタリング調査が活発になり,またフィールドノートに眠っているデータが論文として公開されるようになれば幸いである. |
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全国規模の森林モニタリングが示す5年間の鳥類の変化
Bird Research 10: F3-F11 植田睦之1・岩本富雄・中村 豊・川崎慎二2・今野 怜・佐藤重穂3・高 美喜男・高嶋敦史4・滝沢和彦・沼野正博・原田 修・平野敏明1・堀田昌伸5・三上かつら1・柳田和美6・松井理生7・荒木田義隆7・才木道雄8・雪本晋資9 1. バードリサーチ 2. 雪入ふれあいの里公園 3. 森林総合研究所四国支所 4. 琉球大学亜熱帯フィールド科学教育研究センター与那フィールド 5. 長野県環境保全研究所 6. 日本野鳥の会旭川支部 7. 東京大学生態水文学研究所 8. 東京大学大学秩父演習林 9. 環境省自然環境局生物多様性センター室 2009年から2013年まで,全国21か所の森林で繁殖期の鳥類の個体数変化についてモニタリングを行なった.98種の鳥が記録され,そのうち10地点以上で記録された25種を対象に解析を行ったところ,薮を生息地とするウグイスとコルリが減少しており,キビタキが増加していた.ウグイスとコルリはシカの植生への影響が顕著な場所で個体数が少なく,シカによる下層植生の減少がこれらの種の減少につながっていることが示唆されたが,シカの影響が顕著でない場所でも減少傾向にあり,今後のモニタリングにより減少の原因のさらなる検討が必要である. |
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高知城公園の過去20年間の探鳥会における鳥類の出現種の動向
Bird Research 10: F13-F20 佐藤重穂1・佐藤 錬2 1. 森林総合研究所四国支所 2. 高知学芸高校 高知市中心部にある高知城公園では1990年から毎月,日本野鳥の会高知支部により,探鳥会が開催されている.この探鳥会では,鳥類の出現種と種ごとの確認個体数が記録されている.これは市民参加型の環境モニタリングとみなすことができる.そこで,1990年から2010年までの20年間の高知城探鳥会で出現した鳥類の記録を整理した.20年間で85種の鳥類が確認された.5年単位の4期間に区切って,鳥類の種ごとの出現率と出現個体数の変動を比較した結果,出現率,出現個体数とも減少しているのはモズ1種であり,トビとスズメの2種は出現率の低下は認められないものの,個体数が有意に減少していた.一方,出現率,出現個体数とも増加しているのはヤマガラ1種であり,ハシブトガラスとジョウビタキの2種は出現率の上昇は認められないものの,個体数は有意に増加していた.出現率の動向と出現個体数の動向の異なる種が多く,出現率のみでは個体数の変動を評価するには不十分であると考えられた. |
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温度ロガーをもちいたヤマガラの繁殖時期のモニタリング
Bird Research 10: F21-F25 植田睦之 バードリサーチ 気候変動の鳥類の繁殖への影響を明らかにするため,2010年から埼玉県秩父演習林において,ヤマガラの繁殖時期のモニタリングを巣箱とその底に設置した温度ロガーをもちいて行なっている.2014年までの調査では,毎年10個中6〜9個の巣箱がヤマガラにより使用された,推定されたヤマガラの巣立ち時期は,産卵期の温度ではなく,産卵期までの有効積算気温との相関が高かった.有効積算気温は植物や昆虫の生物季節と相関の高い気象要素で,ヤマガラは食物の発生時期にあわせて繁殖を開始していることが示唆された.今後データを蓄積していくことで,気候変動に対してヤマガラが順応していけるのかどうかについて明らかにしていきたい. |
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スズタケの衰退によるソウシチョウの個体数の減少
Bird Research 10: F27-F32 西教生 都留文科大学 富士山北麓において2014年の繁殖期にソウシチョウの調査を行なった.2009年の調査結果と比較したところ,個体数は有意に減少し,分布の変化も確認された.ソウシチョウの個体数の減少および分布の変化は,ニホンジカの摂食によってスズタケが衰退したからであると考えられた.しかしながら,生息環境が類似するウグイスおよびコルリの個体数は,2012年と2014年では有意な差はなかった. |
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参加型調査で収集した各種鳥類の初認,初鳴きのデータ
Bird Research 10: F33-F36 植田睦之・神山和夫 バードリサーチ 気候変動に対する鳥類の反応をモニタリングするために2005年に開始した参加型調査「季節前線ウォッチ」により収集したデータである.モズ(高鳴き),ヒバリ,ウグイス,メジロの初鳴き日,ホトトギス,カッコウ,アオバズク,ツバメ,オオヨシキリ,ツグミ,ジョウビタキの初認日,ヒヨドリの秋の渡り開始日,カルガモのヒナの初認情報も収集した.これらのデータを集計することで,どの種も年により初認時期が違うこと,温暖な地域ほど初認時期が早く,寒冷な地域ほど遅いという地理的な差があり,その差は1-2月にさえずりはじめるヒバリやウグイスでは大きく,3-4月に渡来するツバメやオオヨシキリは中くらいで,5月に渡来するホトトギスやカッコウでは小さいことなどがわかった.今後,情報を蓄積していくことで,気候変動の鳥類への影響などを解析することができると思われる. |
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最近記録された日本における野生鳥類の感染症あるいは その病原体概要 Bird Research 10: V1-V13 平山琢朗1・牛山喜偉1・長 雄一2・浅川満彦1 1. 酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 感染・病理学分野 2. 北海道立総合研究機構環境科学研究センター道東地区野生生物室 日本で記録された野鳥の感染症・寄生虫病の病原体を体系的に理解することは、保全施策においても重要なツールの一つである。そこでこの総説では、ウイルス、細菌、真菌および原生生物性の病原体の記録情報についてまとめ、それらによる実際の疾病発生を回避する方策について簡単に論述した. |
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沈水植物の塊茎密度が水鳥の採食行動に与える影響
Bird Research 10: A1-A8 薮内喜人1・浜端悦治2・神谷 要3 1. 種苗管理センター沖縄農場.〒905-1202 沖縄県国頭郡東村字宮城404 2. 滋賀県立大学環境科学部.〒522-0057 滋賀県彦根市八坂町2500 3. 中海水鳥国際交流基金財団 〒683-0855鳥取県米子市彦名新田665 水鳥の採食行動を明らかにするために,給餌実験と野外実験を行なった.給餌実験ではカルガモにクロモの地上部(茎と葉)と塊茎を与えたところ,明らかに塊茎を好んだ.野外実験は愛知川河口付近の水深30cmと60cmのクロモ群落で行なった.水深30cmの場所に4か所の実験区(2か所のネットを張った調査区,2か所のネットを張らない調査区)と水深60cmの場所に同様に4か所の実験区を設置した.越冬する水鳥が飛来した前後の塊茎密度を測定した結果,塊茎密度が高かった水深の深い調査区において多くの塊茎が食べられていた.これらのことから,水鳥はクロモの塊茎を好み,塊茎密度に依存して採食している可能性が考えられた. |
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ブッポウソウ雛の成長過程における体重と尾羽の変化について
Bird Research 10: S1-S4 池田兆一1・土居克夫1・山崎智子1・桐原佳介2 1. NPO法人 日本野鳥の会鳥取県支部 2. 米子水鳥公園 2008年から2012年に鳥取県の巣箱で繁殖するブッポウソウのヒナの体重と尾長を測定しヒナの成長過程を把握した.その結果,ブッポウソウのヒナの体重は一度160g位まで増加したが,その後120g前後まで減少した.また,一腹雛の体重と尾長は不揃いなことが多く,その較差には年により差があった. |
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外来沈水植物ハゴロモモが繁茂するため池で見られた水鳥の採食行動
Bird Research 10: S5-S11 渡辺朝一 ハゴロモモ(フサジュンサイ) Cabomba caroliniana は,北米大陸南東部と南米原産の沈水植物である.水槽植物として世界各地に持ち込まれ,日本列島でも,本州,九州,四国,北海道に定着している.しかし,被害に係る知見が不足しているために,特定外来生物種ではなく要注意外来生物種となっている.そこでハゴロモモと水鳥類の関係を明らかにするために茨城県清水沼で2011年4月から2012年3月にかけて調査を行なった.その結果,コハクチョウ,オオハクチョウ,オカヨシガモ,ヨシガモ,ヒドリガモ,マガモ,オオバンがハゴロモモの水中茎および沈水葉を採食していることを確認した.今後は水鳥がハゴロモモの分布拡大にどのようにかかわっているか,水鳥による摂食がハゴロモモにどのような影響を与えるのかについての調査が必要である. |
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八重山諸島におけるカンムリワシの胃内容物
Bird Research 10: S13-S18 時田喜子1・吉野智生1,2・大沼 学3・金城輝雄4・浅川満彦1 1 酪農学園大学獣医学類 2 釧路市動物園 3 国立環境研究所生物・生態系環境研究センター生態遺伝情報解析研究室 4 沖縄こども未来ゾーン 2000年から2010年にかけて八重山諸島で回収された16個体のカンムリワシの胃内容物を検査した.そのうち13胃に何らかの内容物を認め,それらを70%エタノールにて固定後1mmメッシュの篩を通して種ごとに分け,乾燥させた後に乾燥重量を測定した.含まれていた内容物は貧毛類(フトミミズ科),甲殻類(ベンケイガニ,小型カニ類),昆虫類(半翅目セミ科,直翅目の1種,属種不明昆虫類),両生類(オオハナサキガエル),爬虫類(キシノウエトカゲ,イシガメ科の1種),鳥類(シロハラクイナ,属種不明小型鳥類),植物片および小石の計13品目で,甲殻類がもっとも高頻度で検出された.捕食することによる中毒や,殺鼠剤散布による影響が懸念されていたオオヒキガエルやネズミ類は検出されなかった.石垣島の個体からは3品目,西表島の個体では13品目と,島によって食物の出現種数が異なっていた.甲殻類は夏季だけでなく冬季にも出現し,カンムリワシの食物として重要であることが示唆された. |
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鉛化合物に対するカモメ類の異嗜の観察事例
Bird Research 10: S19-S21 籠島恵介 セグロカモメ,オオセグロカモメ,カモメ,ウミネコが千葉県銚子漁港の岸壁に付着した「褐色の物質」を摂取しているのを観察した.この物質からは高濃度の鉛が検出され,1960年代に埋立てのため使用された焼却灰に由来する鉛化合物と推定された.この摂取行動は動物が鉛を自発的に食べる異嗜行動の一種と思われる.中毒症状は確認されなかったが,繁殖率や生存率への影響が懸念された. |
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渡嘉敷島におけるブロンズトキの記録
Bird Research 10: S23-S24 森田祐介・越野一志・山鷲仁志 2014年5月6日、沖縄県の渡嘉敷島においてブロンズトキ1個体を確認した.本種は国内でも過去に確認記録があるものの,「かご抜け個体の可能性が否定できない」ことから,日本鳥類目録改定第7版には掲載されず,検討中との扱いになっている.本種の確認情報を記録することにより,国内で確認される本種が自然分布であるのか否かについて,一定の判断に繋げることが期待できる. |
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カワウの頭骨計測による骨格の性別判定
Bird Research 10: S25- 福田道雄 カワウ標識調査グループ カワウ Phalacrocorax carbo の骨格標本の性別判定を行うため,頭骨の 7部位(上嘴長,眼窩間面最小幅,後眼窩突起幅,大脳隆起最大幅,頬骨突起幅,旁後頭突起幅,頭骨長)を計測して,判別関数式を作成した.計測したカワウは,福島県から兵庫県にかけての 1都12県から新鮮死体で収集した51個体で,剖検によってオス23個体とメス28個体と判明していた. 7部位の計測値はすべて有意にオスが長く,上嘴長と頭骨長では計測範囲が重複していなかった.判別関数式は上嘴長と頭骨長に残りの 1部位の計測値を加えた 3部位の計測値を用いた 5組の式と,上嘴長と頭骨長が計測できない場合で,残りの 5部位の計測値を用いた 1組の式を作成した.全ての判別関数式の判別的中率が 100.0%であった.これによって,破損などによって一部の部位の計測が困難な頭骨の骨格を含めて,性別判定ができるとわかった. |
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