プレイバック法をもちいたクマゲラの生息調査

Bird Research 8: A1-A10


雲野 明
北海道立総合研究機構林業試験場

 道北にある中川町で2007年12月から2008年11月に,道央の空知地域の森林で2008年5月から2009年11月にクマゲラ Dryocopus martius のプレイバック法をもちいた生息調査を行なった.中川では5,9月を除いてプレイバックをもちいた生息調査でクマゲラを発見した.プレイバック再生前の待機時間,再生中,再生後の待機時間に発見したクマゲラの累積発見率の推移は,単位時間当たり同じ確率で発見するとした期待値とほぼ同じであった.雄も雌もプレイバックに反応した.クマゲラは声にもドラミングにも反応し,どちらによく反応するかは現時点ではわからないので,声とドラミングの混在した音源でプレイバックを行なうことを推奨する.クマゲラの発見率は,季節(春と秋)や日の出からの経過時間により変化することはなかった.プレイバック後に鳴かずに飛んでくることがあり,見落とす可能性が示唆された.プレイバック後にドラミングのみの反応しかなかった場合には,ドラミングによる種の識別手法が確立していないので,クマゲラのドラミングとして記録すべきでない.


キーワード: クマゲラ,発見率,プレイバック,季節,日の出からの経過時間




ハス田に敷設された防鳥ネットに羅網した野鳥の被害状況と
  防鳥ネット敷設が鳥類の生息に与える影響

Bird Research 8: A11-A18


渡辺朝一

 レンコン栽培が盛んな茨城県下のハス田で,レンコン食害を防ぐための防鳥ネットに,コガモ Anas crecca,ヒドリガモ A. Penelope,オオバン Fulica atar など,多くの野鳥が羅網して落鳥する事態が続いている.防鳥ネットが多く敷設されている霞ヶ浦湖岸のハス田で,2010年から2011年にかけての冬期に5回の調査を行ない,羅網鳥の時期的な推移や,ネット1枚あたりへの羅網数,落鳥していない鳥類の生息状況など基礎的なデータを得た.それら以外に,種によるネットへのかかり方の違い,種によるレンコン収穫前後のハス田での羅網状況の違い,ネットごとの羅網数の違い,羅網した鳥がどれほどの期間羅網したままで存在するかを推察するためのネットごとの同一種の連続記録に関して調査した.羅網鳥は15種が記録され,種の識別ができなかったものも含めのべ185羽の落鳥が記録された.防鳥ネットの天井面積を1haに換算すると,1日の調査では7.5±1.8羽が記録された.マガモ属は主に翼を引っかけて羅網し,オオバンは主に足を引っかけて羅網していた.コガモの羅網はレンコン収穫前のハス田でより多く記録されたが,オオバンの羅網はレンコン収穫後のハス田で多かった.種の識別ができたのべ145羽の羅網落鳥個体のうち,98羽は同じネットで連続的に記録されず,確実に 1か月以内にネットから消失していた.生息している鳥類は25種が記録された.サギ類,シギ・チドリ類は防鳥ネットの敷設されたハス田にはわずかな出現かあるいは全く出現せず,防鳥ネット敷設により生息にマイナスの影響を受けていた.スズメ目のハクセキレイ,セグロセキレイ,タヒバリ,ツグミは防鳥ネットの有無に関わりなく記録され,防鳥ネットは生息の障害となっていないと考えられた.


キーワード: 防鳥ネット,羅網被害,ハス田,茨城県




オナガは好適な営巣場所の有無をもとに
  ツミの巣のまわりに営巣するかどうかを決定する?

Bird Research 8: A19-A23


植田睦之
バードリサーチ

 オナガ Cyanpica cyana はツミ Accipiter gularis の防衛行動を利用して捕食を避けるために,ツミの巣のまわりに集まってきて繁殖するが,ツミが巣の直近しか防衛しなくなった2000年代からは,ツミの巣のまわりで繁殖することは少なくなった.しかし,一部のオナガはツミの巣のまわりで繁殖し続けている.なぜ,一部のオナガがツミの巣のまわりで繁殖しているのかを明らかにするため,営巣環境に注目して2005年から2011年のあいだ東京中西部で調査を行なった.ツミの巣のまわりのオナガの巣は1990年代よりも葉に覆われた場所につくられるようになり,通常のオナガの営巣場所とかわらなかった.またツミの巣の周囲に好適な巣場所が多くある場所でのみ,ツミの巣のまわりで営巣した.これらの結果は,オナガは1990年代同様,ツミのできるだけそばで繁殖しようとしてはいるものの,当時のように自分たちの巣の隠蔽率を無視してまでツミの巣の近くを選択することはなく,営巣場所選択におけるツミの巣からの距離と隠蔽率の優先順位が逆転したことを示唆している.


キーワード: 営巣場所選択,オナガ,ツミ,防衛行動





奄美大島における鳥類の窓ガラスへの衝突事故の発生状況

Bird Research 8: A25-A33


水田拓・阿部優子

 奄美大島における鳥類の窓ガラスへの衝突事故について調査した.2006年4月から2012年3月までの6年間に,63件(11種)の衝突事故が確認された.衝突事故は一年を通して発生しており,夏鳥のアカショウビン Halcyon coromanda,留鳥のズアカアオバト Sphenurus formosae,冬鳥のシロハラ Turdus pallidus などで多かった.オーストンオオアカゲラ Dendrocopos leucotos owstoni やカラスバト Columba janthina など,絶滅が危惧される種でも衝突事故は見られた.衝突死した個体では,叉骨,烏口骨などを含む胸帯や,胸椎,肋骨,胸骨によって構成される胸郭の骨折が目立ち,またほとんどの個体で肺,心臓,肝臓などの器官からの出血が認められた.衝突事故は観光施設や公共施設,学校など大型の建物で多く発生していた.衝突事故を減らすためには,これらの施設で対策をとるよう普及啓発活動を行なうことが重要である.また,今後奄美大島で大型の施設を建てる際には,鳥類の衝突を未然に防ぐような設計上の工夫を施すことが望まれる.


キーワード: 鳥類の衝突事故,窓ガラス,奄美大島,人工建造物






自動撮影カメラとタイマー付録音機で記録された
  トカラ列島の無人島群における鳥類相

Bird Research 8: A35-


関 伸一

 トカラ列島の3つの無人島(臥蛇島,上ノ根島,横当島)に上陸して直接観察を行なうとともに,森林内に自動記録装置(赤外線センサー式自動撮影カメラとタイマー機能付録音機)を1年以上にわたり設置して鳥類相を調査した.3島で記録された種数はそれぞれ40種,30種,28種であったが,繁殖の可能性が示唆された種は13種,9種,8種であった.直接観察でのみ記録されたのは海鳥類やサギ科など森林を利用することが稀な種であった.また,いずれの島でも自動記録装置でのみ記録された種が約3分の1を占め,渡りの途中で一時的に滞在したり,越冬したりする渡り鳥で,上陸調査の実施可能な時期には観察しにくい種が多く含まれた.森林性で繁殖していると推測された種は複数の手法で共通して記録されることが多かったが,繁殖の可能性を判断する根拠となったのは主に録音機による繁殖期の連続的なさえずりの記録であった.自動記録装置は,動作安定性に課題が残されてはいるが,遠隔地では非常に効果的な調査手法であることが明らかになった.


キーワード: 自動撮影カメラ,タイマー付録音機,鳥類相,トカラ列島,無人島






風向に応じて飛行場所を変える渡り中の
  ハシブトガラスとハシボソガラス

Bird Research 8: S1-S4


植田睦之
バードリサーチ

 2008年から2010年の3月に北海道小平町において,春期に北へ向かって渡るハシブトガラスとハシボソガラスの飛行位置と個体数,風向を記録した.東よりの風が吹いているときにはカラス類は内陸を渡ることが多く,西よりと北の風の吹いているときには海岸段丘沿いを渡ることが多かった.調査地では西よりの風が吹くと海岸段丘により斜面上昇風が起きる.カラス類はこの斜面上昇風を利用して,渡っていることが示唆される.


キーワード: 斜面上昇風,ハシブトガラス,ハシボソガラス,風向,渡り






沖縄本島におけるメジロによるハイビスカス花への盗蜜被害率の周年変化

Bird Research 8: S5-S9


籠島恵介

 沖縄本島3か所において,メジロによるハイビスカスの花への盗蜜被害率を年間記録した.すべての調査地において冬期の盗蜜被害率が他期より有意に高かったが,一箇所の調査地(市街地)では,春夏期でも大きな被害率が記録されることがあった.これは品種が異なるため,人為的攪乱のため,あるいは花卉植物および果実が多いためと思われた.また,3か所すべてにおいて,カンヒザクラの開花期に,ハイビスカスへの盗蜜被害率が低下してい.た.メジロがカンヒザクラから吸蜜しているのが頻繁に観察されるため,このことが影響していると思われた.


キーワード: 動物-植物相互作用,盗蜜,メジロ,ハイビスカス,桜






染色標識で個体識別して調べたオナガガモの都市公園池での飛来状況

Bird Research 8: S11-S14


福田道雄

 東京の都心に位置する上野公園不忍池では,上野動物園によって1966年頃から野生のカモ類への給餌が行なわれはじめた.そのため,毎冬多種のカモ類が多数飛来し,1980年代からオナガガモが優占種となっていた.そのオナガガモが不忍池をどのように利用しているかを調べるため,1987年11月から1988年3月までの冬期間,オナガガモのオスを捕獲し,白い胸に個体識別用の番号を書き込み,放鳥後の飛来状況を調べた.不忍池では給餌が毎日行なわれていたため,オナガガモは常時多数見られていた.しかし,標識個体の飛来状況から,多数のオナガガモは断続的に不忍池を利用していて,日常的に利用する個体は少数だと推測できた.

キーワード: オナガガモ,染色標識,都市公園池,越冬飛来状況






東京都上野動物園におけるスズメの巣内ヒナ数

Bird Research 8: S15-S18


福田道雄

 1977〜1984年と1990〜1995年の5〜8月に,東京都恩賜上野動物園の西園でスズメの巣内ヒナ数の調査を行なった.平均ヒナ数とその標準偏差は1977〜84年が3.4±1.3羽(n=22),90〜91年が2.9±1.3羽(n=17),92年が2.5±1.1羽(n=45),93年が2.1±0.9羽(n=46),94年が2.2±1.1羽(n=55),95年が2.3± 1.1羽(n=44)で,年による有意な差がみられた.また月による平均巣内ヒナ数にも有意な差が見られた.

キーワード: スズメ,ヒナ数,都市公園,東京






沢音は鳥の局所的な分布に影響を与えている?
〜埼玉県奥秩父での一事例〜

Bird Research 8: S19-S24


植田睦之

 沢音が鳥の分布に与える影響を明らかにするために,2009年から2012年にかけて,埼玉県秩父の大山沢で繁殖期と越冬期にそれぞれ6日間の調査を行なった.沢音のする場所としない場所に各3点の定点を設置し,周囲50m以内に出現した鳥の種と数を記録したところ,エゾムシクイ Phylloscopus borealoides は沢音のする場所で有意に多く,ゴジュウカラ Sitta europaea とヒガラ Periparus ater は沢音のしない場所で有意に多いことが明らかになった.ミソサザイ Troglodytes troglodytes とオオルリ Cyanoptitla cyanomelana には有意な差は認められなかった.越冬期は,ゴジュウカラ,ヒガラ,コガラ Poecile montanus ともに沢音の有無で有意な差はなかった.沢音のする場所で多かったエゾムシクイは,沢音の影響の少ない6,000Hzより高い声でさえずり,沢音のする場所で少なかったゴジュウカラとヒガラは沢音の影響の大きい6,000Hz以下の声でさえずることがわかった.これらの結果は沢音がさえずりの伝播の阻害を通して鳥類の分布に影響を与えている可能性を示唆している.

キーワード: エゾムシクイ,ゴジュウカラ,ヒガラ,さえずり,騒音,周波数






2個体の雄が関与したサンコウチョウの繁殖行動の観察

Bird Research 8: S25-S30


藤井忠志・渡邊治

 岩手県雫石町七ツ森の町有林で,雄2個体,雌1個体が関与したサンコウチョウの繁殖を観察した.雄は尾羽の短い若鳥と,尾羽の長い成鳥であった.給餌行動や雄,雌による排他的行動から,雌個体とつがい形成していたのは,前者であると考えられた.尾羽の長い成鳥の雄がどのような経緯で繁殖に関与するようになったのかは不明である.今後,このような事例が見つかった場合は,DNAサンプルを採取して父性を調べると同時に,本種の繁殖生態を精査することが重要である.

キーワード: サンコウチョウ,一夫一妻,給餌,2個体の雄による巣への関与






長時間の録音データから鳥のさえずり状況を知るための聞き取り時間帯の検討

Bird Research 8: T1-


植田睦之・平野敏明・黒沢令子

 ICレコーダのタイマー録音のデータなど膨大な録音データから,効率的にその日のさえずりの状況を聞き取るための最適な聞き取り時刻の検討を行なった.北海道から高知県にかけて9地点の音源の日の出20分前から1時間後までの聞き取りを行なった.その結果,日の出4分前から6分後までの10分間に最も多くの鳥がさえずっており,その時間帯に記録率の低かったアオバト Treron sieboldii,イカル Eophona personata,センダイムシクイ Phylloscopus coronatus は遅い時間帯になって記録率が高くなることがわかった.また,初認日の夏鳥は,日の出前後の時間帯よりも遅い時間帯によく鳴くことがわかった.したがって日の出前後の時間帯と日の出からある程度たった時間帯の両方を聞き取るのが,録音データから鳥のさえずり状況を把握するためには良い手法と考えられた.

キーワード: 森林性鳥類,さえずり,長時間データ,調査方法






森林音のライブ配信から聞き取った森林性鳥類のさえずり頻度のデータ

Bird Research 8: R1-R4


植田睦之1・黒沢令子1・斎藤馨2
1. バードリサーチ
2. 東京大学大学院新領域創成科学研究科

 気候変動の鳥類の繁殖時期への影響をモニタリングする目的で,2011年から開始した埼玉県秩父および長野県志賀での鳥のさえずりのライブ音の聞き取り結果である.森林の鳥類のさえずり状況の連続データで公開されたものはなく,さまざまな研究を行なう上でも有用な情報と考えられるため,ここに公開する.

データダウンロード:
  http://www.bird-research.jp/appendix/br08/08r01.html


キーワード: 季節変化,さえずり,森林,日周変化,年変動