著者紹介
嶋田哲郎
.1969年東京生まれ。ガンカモ類をはじめとする水鳥の調査をしています。最近は落ち籾,落ち大豆拾い,牧草、麦穂刈り取りなど,調査に行ってもほとんど鳥をみないことがあります。ちょっと寂しい気持ちもありますが,それらの量と鳥の動きを重ねると鳥のことがよくわかります。鳥をよく理解するために避けては通れない道と思うようにしています。
平野敏明
.栃木県宇都宮市在住。バードリサーチ研究員。昨夏,鳥仲間に茨城県のチュウヒの繁殖地を案内していただいたときのこと。そこではオオセッカやコジュリンが繁殖し,チュウヒが飛び交っていました。渡良瀬遊水地では広大な湿地環境があるのにこれらの湿地性の鳥は繁殖していません。「隣の芝生は青く見える」の例えではありませんが,羨ましく思うとともに,湿地環境の多様性の重要さを改めて感じました。最近はチュウヒに加え,クイナ類やサンカノゴイ,オオセッカを渡良瀬遊水地で追いかけています。この地が湿地性の鳥の楽園となることを願って…。写真は対馬での一コマ。
三上 修
.1974年島根県生まれ。「とことこんわかりやすい研究をしてみよう」と思ってやってみたのが今回のスズメの個体数推定です。推定してひと月ほどは落ち着かない日々が続きました。というのも,スズメが群れているのを見ては「もっとたくさんいるのでは」と思うし,見ない日には「もっと少ないのでは」と,いちいちドキドキしていたからです。スズメに限らずいろいろな鳥種の個体数がもっと高い精度で分かるようになったら,「街中のエネルギーのうちどれくらいを鳥が使っているのか」みたいなことがわかって面白いかなと思っています。なお,早朝の街中を調査する際は,怪しまれないように普通の格好をして,双眼鏡は鞄かポケットの中にしまっておくのが無難です(写真のように)。本文中にもありますが,明け方の繁華街は野外よりも危険だったりします。
西教生
.1982年三重県生まれ。身近にいる鳥がどこでどのような暮らしをしているのかに関心があります。今回はハシボソガラスとハシブトガラスの換羽をまとめました。捕獲せずに換羽を調べられるのがいい点でした。全国各地でこのような調査が行なわれれば地域による違いを比較でき,生態と関連させてカラス類の暮らしの全体を大きく掴みとれるのではないかと思っています。また、都留文科大学のフィールド・ミュージアムでは採集したカラス類の羽を標本として保存しており,これを教材としてうまく教育活動に活かしていけたらと考えています。
高瀬裕美
.1984年福岡県生まれ。カラス類の羽が持つ機能美に惹かれ,落ちている羽を集め始めました。いくつか集めると微妙に色の違うものがあり,年齢や性別と何かしら関係があるのかもしれないと思うようになりました。特に就塒前行動に興味があり,秋から春にかけてねぐらに向かうカラス類が調査地上空を横切るのを眺めています。春が近づくとねぐらに向かうカラス類が減るので,寂寞の想いでいっぱいです。
松田道生
.道北は,はじめての来訪でした。サロベツは,シマアオジの写真を撮るカメラマンで繁盛していました。もし,シマアオジがこのまま減少していった場合,写真は残っても鳴き声は残らないと思いの録音行でした。そのおまけが,ムジセッカのさえずりでした。姿の見えづらいウグイス科の鳥などでは,録音による記録がたいへん有効かと思います。最近,安くて性能の良いメモリー録音機が発売されています。皆さんも録音にチャレンジしてみてはいかがですか。いろいろな発見があると思います。(写真撮影:由井龍太郎)
植田睦之
.1970年東京都生まれ。最近はレーダーなどを使った渡り鳥の調査をしています。鳥の調査をしているというよりも,コンピュータの画面を見ているというような調査になってしまいますが,今まで見えなかった夜の鳥の動きが見えたり,目視ではなかなかわからない鳥の飛んでいる位置がはっきりわかったり,なかなか面白いものです。先日,白樺峠でサシバとハチクマの渡りをレーダーで見たのですが,目視では,遠くの尾根の上で旋回上昇しているように見えたのが,実際はそれよりも3分の1の距離もない近い位置を飛んでいるのがレーダーでわかり,目のいい加減さに愕然としました。写真は室蘭のウィンドプロファイラの前で。
有澤雄三
.35年前,ヘリコプターでの気温・湿度観測が気象屋としての初仕事。以来,セスナ機やYS-11でのリモートセンシングなど「空中作業」をしてきました。雲,飛行機,鳥など空に浮かぶ・飛ぶものには何でも興味があります。現在は気象レーダ,ウィンドプロファイラ、アメダスなどの観測データから,全球気象予測モデルの出力まで,公開されているほとんどの気象データの処理解析を行うデータ処理屋です。鳥たちの活動の理解を深めるために,気象データが有効に活用されるよう助力できればと思います。
高木憲太郎
.1977年東京都生まれ。カワウの各種調査や保護管理の推進,ミヤマガラスの調査を主にやっていますが,レーダーの調査も関わっていました。今はレーダーの画面をパソコンに自動的に録画する方法が確立していますが,最初のころは一晩中レーダーの画面に向かいながら,鳥の軌跡を記録していました。眠気と目の疲労との戦い。明け方に地元の人が持ってきてくれた缶コーヒーと肉まんが,とてもうれしかったです。写真は,その時のもの。ほかにレーダー調査で思い出深いのは,月面を渡る小鳥をビデオカメラにつなげた望遠鏡で一晩捉え続けた時です。とても滑らかとは言えない運台と格闘しながら,思いもよらぬ速さで視界から消えていく月を追いかける。あの苦労があっただけに,ビデオに月面を渡る鳥が写っていたときはとてもうれしかったです.
樋口広芳
.鳥の渡り研究は,最近,基礎面だけでなく,航空機や風力発電施設との衝突回避,感染症の伝播経路解明などの応用面でも,ますます重要性を増しています。そうした状況にあって,最近とくに,野外観察と高度情報通信技術を組み合わせた渡り研究の必要性を感じています。今回の論文に示されているように,日本でもようやく,レーダーを利用した研究が始まりました。この技術と衛星追跡,そして野外観察の 3つを組み合わせると,今後,渡り研究は飛躍的に発展するのではないかと期待されます。どう組み合わせることができるか,連携をどのように保っていくのかが課題です。写真はハチクマの放鳥。