弥富野鳥園での標識調査

西崎生二(愛知県豊田加茂農林水産事務所)

1 はじめに

弥富野鳥園では、愛知県の施設として昭和50年に開園して以来、業務の一環として職員による各種鳥類の標識調査が行われてきた。一方、カワウは当初あまり個体数が多くなく、貴重な野鳥として観察されていたようである。1983年に初めて園内でのねぐら入りが確認された後、急速に羽数が増加し始め、1990年代に入るとねぐらのあるエリアで樹木が急速に枯れ始めた。


2 調査に基づいた対策の必要性

愛知県内でも、年代を同じくしてコロニーや個体数が急速に増加していく状況にあった。絶滅危惧種のため手厚く保護され、その生態を解明することで羽数回復のための方策を模索する時代から、わずか数十年の後には被害問題を考える上で、羽数増加をどうコントロールするかといった難しい局面に変化したといえる。
 弥富野鳥園では当初、人による追い出しなどわずかな対策が行われていた。しかしながら、これらの対策は物理的に営巣エリアからカワウを追い出すだけで、抜本的な羽数増加対策ではなく、むしろ現在の周辺地域でのカワウの分布拡大を生み出してしまったひとつの要因かもしれない。

このような状況の中で、伊勢湾岸自動車道開設に伴う環境影響評価調査が行われ、園内におけるカワウの個体数増加の状況が浮き彫りになった。この調査結果は、野鳥園の追い出しだけを念頭においた「点」での対策ではなく、調査に基づいた県内のカワウの生息状況も踏まえた上での「面」での対策が必要なことを野鳥園としても考えなくていけない状況であることを認識させるきっかけとなった。 ?

3 対策に向けての標識調査の取り組み

2000年より園内でのカワウと他の野鳥の共存を図りながら被害の拡大防止と恒久的なコロニーとしての場所の提供が可能かどうかの模索が始まった。

2001年より愛知県自然環境課および弥富野鳥園職員が主体となって、県内のカワウ研究者らの調査協力のもと、統一された方法でのねぐら入りの個体数カウントや営巣数のカウントなどが始まり、本格的に調査体制が整ってきた。対策も愛知県田原市での成功例を参考にした人口巣台の設置、ねぐらの拡大防止のためのやぐら設置などの被害拡大防止方法の模索を開始した。

このような状況の中で、2002年からは野鳥園と県内の他のコロニーとの移動状況を明らかにするために、カワウの標識調査が開始された。これまでの3年間で61羽が放鳥され、園の内外で14例の観察記録(愛知県三河湾沿岸、三重県鈴鹿市等)が得られている。また、他のコロニー(愛知県鵜の山・田原)で標識されたカワウも、野鳥園で13例記録が得られ、県内の他コロニー間とのカワウの行き来があることが確認された。
 今後、これらの標識調査も含めた調査結果が野鳥園のカワウ対策に生かされればと考えている。
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